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アトピー薬「ヒルドイド」、美容目的処方の闇…薬剤師が告発

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
アトピー薬「ヒルドイド」、美容目的処方の闇…薬剤師が告発の画像1「Thinkstock」より

 昨今、医療費の増大は日本の抱える大きな問題のひとつとなっている。そんななか、アトピー性皮膚炎や乾燥肌などに対して処方される保湿剤の「ヒルドイド外用薬」が注目の的となっている。

 ヒルドイドを美容目的で求める人が増え、医療費の増大を招いているとの指摘があり、ヒルドイドへの保険適用を見直すべきとの論議が持ち上がっているのだ。なぜ、医療費の増大を招くほどヒルドイドの不適切な処方が増えてしまったのか。その背景には、保険診療を行う医師のなかに、患者を獲得するため安易に薬を処方する医師がいることが挙げられる。

処方箋発行は医師のみが可能

 私たちは、「国民皆保険」の制度により医療費給付を受けることができる。だが、それは保険診療に限られている。保険診療で処方される薬は、医薬品ごとに処方可能な症状や疾患に縛りがある。話題となっているヒルドイドについても同様だ。保険診療によって認められているヒルドイドシリーズ(クリーム0.3%、ソフト軟膏0.3%、ローション0.3%)の適応症は、以下の通りである。

・血栓性静脈炎(痔核を含む)
・血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)
・凍瘡
・肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防
・進行性指掌角皮症
・皮脂欠乏症
・外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎
・筋性斜頸(乳児期)

 今回、問題になっているように、健康な肌の人が美容目的で使用することは保険適用の範囲ではない。筆者は、ヒルドイドが美容目的で処方されている責任は医師にあると考える。たとえば、ビタミン剤の処方は美容目的などによる医療費の無駄遣いを防ぐために、健康保険の審査支払機関である東京都国民健康保険団体連合会(国保連)や社会保険診療報酬支払基金(支払基金)が厳しくチェックしており、保険適用が認められないと判断されれば差し戻され、医療機関がその薬代や診療代を返還しなければいけないというケースもある。

 医師たちはそういったケースを回避するため、ビタミン剤の処方には慎重で、漫然と長期間にわたって処方することはない。美容目的の場合は、保険が適用されず薬代も自費となる。

 本来なら、ビタミン剤のようにヒルドイドも医師が患者の目的に応じて、保険適用が不適切と判断すれば、自費という選択肢を提案すべきである。

医療費を動かしているという自覚がない医師も

 多くの医師は、医療費削減を意識しながらも、患者に質の高い医療を提供するために努力している。医療現場で25年以上働く筆者が、そういった良い医師のほうが圧倒的に多いことを断言する。一方で、ほんの一握りではあるが、自分の利益や薬局との利益共有のために不適正な処方をするモラルに欠ける医師がいることも事実だ。

 筆者も過去、そういったモラルに欠ける医師に出会ったことがある。その医師は、ヒルドイドの処方量がその地域で自分が一番だということを誇っていたほどだ。筆者は薬剤師として、適正処方について幾度となく意見をしたが聞き入れてはもらえず、むしろ「うるさいことを言うな」といった態度をとられた。筆者が薬剤師として力が及ばなかったと、今も悔やまれる経験である。

 今回のヒルドイドの件で、あらためて国や医師会などが適正処方について医師への指導を強化することを期待したい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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