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武神健之「優良健康文化をつくるために」

なぜ職場でのパワハラ問題への対処は、必ずと言っていいほど、こじれるのか?  

文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事
なぜ職場でのパワハラ問題への対処は、必ずと言っていいほど、こじれるのか?  の画像1「Gettyimages」より

 近年、企業で働く人の3人に1人が、過去3年間にパワハラを経験しているといいます。国もその対策や解決を声高に求め、対策を立てる企業も増えてきています。しかしながら、実際に社員から相談があっても、解決すべきパワハラ問題を逆にこじらせてしまうケースが少なくありません。今回は、職場でありがちなパワハラ問題がこじれる典型的理由3つについて、そして、そうならないための対処案について、お話ししたいと思います。

感情と事実に分けて対応できていない

 まず、パワハラ問題がこじれる1つめの理由は、パワハラ問題に潜む感情と事実の2つの要素を考慮して対処していないからです。

 パワハラ問題への対処には、「感情の救済」と「事実の認定(クロなら処罰も)」という2つの異なる要素があります。この2つの要素があることと、その要素の優先順位が、ハラスメントに関わる立場によって異なることが、多くのハラスメント問題をこじらせているようです。

 まず、パワハラを受けた相談者は、救われたいという感情と、パワハラを自分が受けたという事実を認めてほしい、そしてできれば相手を処罰してほしいという希望があります。

 一方、パワハラをしたとされる相手には多くの場合、そのようなクレームがされたことに対する怒りや失望、落ち込みといった反発の感情が生じます。そして、そのクレーム内容が事実とは認定されたくないという事実への否定や、もしくは自分はパワハラをしていないと考えるに至りますが、後者のほうが多いです。ハラスメントとは「加害者の意図に関係なく行われたこと」と定義されていますから、このような反応は当然なものとも言えます。

 そして、会社側の立場としては、まず相談者の感情を助けたいと考えます。が、それは必ずしもパワハラの事実を認定し、加害者を処罰するということではないのです。会社にとってパワハラ事実の有無判定は、あくまで一連の定められているプロセスです。そこに相談者(被害者)と相手(加害者)の感情の割り込む余地はなく、単に事実の有無を判定するだけです。

 このように、パワハラに関わる3者の求める内容や優先順位が異なることを認識せず、「訴え→調査→判定と処罰」を行っている限り、多くのわだかまりが生じることは容易に想像がつきます。

 対処案としては、パワハラの判定プロセスが定められているのと同じように、相談者の精神面のフォロー体制もしっかりと構築し、感情の救済も並行して行えるようにすることがあげられます。

武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事

武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事

医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある

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