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杉江弘「機長の目」

自衛隊がオスプレイ導入、首都圏で墜落事故の危険…政治主導の配備で隊員の命も危ない

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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 しかしオスプレイを配備される陸上自衛隊幹部は、「陸上自衛隊長期防衛戦略にオスプレイの名前はなく、当初採用されなかった」と明かす。私が最前線のヘリ部隊の幹部に聞くと、その理由は現在、オスプレイの2倍の輸送力を持つCH-47型大型ヘリを57機も保有し、狭い日本での活用はCH-47で十分とのことである。

政権の都合で決まった導入

 では、なぜオスプレイを陸上自衛隊が導入することになったのか。答えは武器のことを十分に知らない政治家がトップダウンのかたちで決めたことによる。

 最初のいきさつは米軍が沖縄への配備を進めた2012年当時、沖縄から強い反対の声が上がり、それを見た玄葉光一郎元外相が「安全性を訴えるために自衛隊も保有すべきだ」と提案、当時の森本敏元防衛相がそれに同調して2013年度防衛費に調査費として800万円を計上したことといわれている。

 そして同年11月に衆議院が解散され、選挙で勝利した自民党が政権復帰すると、安倍内閣は14年度予算に調査費1億円を計上し、導入目標を15年度と発表したのであった。このようにオスプレイは現場の自衛隊の意見をまず聞くことからでなく、米軍の意向を優先させた「政治主導による武器調達」として決定されたといってよい。

実際に誰がオスプレイを操縦するのか?

 オスプレイは陸上自衛隊に配備される。現在の陸上自衛隊にはヘリを操縦する隊員と、固定翼の偵察機などを操縦する隊員がいる。オスプレイの垂直離着陸という特徴から、訓練要員はヘリのパイロットから選ばれるであろう。

 しかしオスプレイは固定翼の航空機としての性能を有し、パイロットは固定翼機としての緊急操作要領もこなす必要がある。実際オスプレイの上空でのエンジントラブルなどの場合、固定翼機としての滑空による不時着の技術や、失速からの回復技術が求められている。

 現在の隊員のなかにはヘリと固定翼機の両方を十分に経験しているものは少なく、今後両方の操縦技量を十分に身に着ける必要がある。しかし、それはそう簡単なことではない。訓練には相当な時間が必要で、何よりも慣熟飛行をどこでどのように行うのか、教育に当たる米軍との調整も必要となってくる。そしてシミュレーターに続く実機の慣熟訓練で、地上の被害を出さない安全をどう担保するのか課題は多い。

 オスプレイの導入はいったん白紙に戻して、現場自衛官たちの意見もふまえ十分な議論を重ね結論を出していくことが必要ではないか。

 そしてシミュレーターでの訓練不足によって事故が続いている自衛隊でこれ以上隊員の命を粗末にしてはならない。必要なのは現有機での基礎的訓練である。優秀なアメリカ人のパイロットでもこれだけ多くの事故を起こしているオスプレイを、自衛隊が十分な訓練と導入準備を怠ったり、拙速に導入を急げば、首都圏をはじめ日本の人口密集地でも墜落事故が起きる可能性がある。

 現在の東アジアの情勢は米朝合意などで大きく変わろうとしている。ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とせる1基1000億円もかかるイージス・アショアの配備にも批判が多く出されている今日、「米海兵隊」の敵地攻撃を主な任務とするオスプレイを「陸上自衛隊」が配備するという日本の国防政策の妥当性について、議論を重ねることが重要であろう。
(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
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Twitter:@CaptainSugie

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