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木村貴「陰謀論のリアル」

障害者への強制不妊手術という優生政策を正当化…“福祉国家”の危険な正体

文=木村貴/経済ジャーナリスト
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 ところがこのワイマール憲法には、次のような規定があった。

「夫婦は、家庭生活、国民の維持と増加の基盤として、この憲法による特別の保護下に置かれる。(略)家庭の純粋性の維持、健全化、社会における促進は、国家と市町村の任務である」(119条)

「子孫を肉体的、精神的、社会的に優秀に育つべく教育することは、両親が負っている最高位の義務であると共に自然の権利であり、両親の行動を国家共同体が監視する」(120条)

 夫婦による子づくり、子育てという極めて私的な領域に国家が介入することを積極的に認めている。こうした規定が盛り込まれた背景には、当時、第1次世界大戦で多くの女性が夫を亡くすなか、子育ての負担を国家が肩代わりするという判断があった。一見、女性や家族に優しいようだが、それは国家が人間の生命の誕生や維持に深く介入し、権利と同時に義務を負わせることを意味する。社会主義の理念を掲げる社民党には、将来の経済を担う世代は単に親の子供ではなく、国家の子供でなければならないとの考えもあった。

 ワイマール憲法のこうした考えを具体化したのが、1920年の戸籍法改正である。

「戸籍局は、婚約者ならびに法律上その同意が必要な者に対し、婚姻登録に先立って、婚姻前の医学検診の重要性に注意を促すパンフレットを交付しなければならない」との条項を追加。これを受け健康省が作成・交付したパンフレットでは、健康な相手と結婚することが崇高な義務だとし、結核、性病、精神病、アルコールや薬物の中毒症にかかっている人と結婚すれば、自分自身の健康が損なわれるだけでなく、病気や障害のある子供が生まれることで社会に大きな負担をかけるなどと記した。

 強制不妊手術を認める断種法の制定も、社民党内部で求める声があり、成立こそしなかったものの、議会に法案が提出された。これは1933年、ナチス政権下で実現することになる。

 かつて日本の厚生省は、食糧難や人口増などへの対応を迫られていた社会情勢を背景に、障害者に対する強制不妊は日本国憲法に定める「公共の福祉」に合致すると正当化した。この「公共の福祉」もワイマール憲法で初めて明記された概念である。

ナチスドイツより強化された戦後日本の優生保護政策

 一方、北欧デンマークではナチスドイツに先立つ1929年、社民党政権下で断種法が制定される。性犯罪の恐れのある者に対する去勢手術とともに、精神病院や施設で暮らす「異常者」に対する不妊手術を合法化。手術には原則として本人の同意が必要とされたが、当人に法的な同意能力が期待できない場合は、後見人の代理申請による実施が認められた。その後、知的障害者のケアにかかる費用をすべて国が負担するなどの福祉政策が導入されると、それと引き換えのかたちで知的障害者への不妊手術が加速していく。

木村 貴/経済ジャーナリスト

木村 貴/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。1964年熊本生まれ、一橋大学法学部卒業。大手新聞社で証券・金融・国際経済の記者として活躍。欧州で支局長を経験。勤務のかたわら、欧米の自由主義的な経済学を学ぶ。現在は記者職を離れ、経済を中心テーマに個人で著作活動を行う。

Twitter:@libertypressjp

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