東京23区の活力を生む“住宅事情”の秘密…足立区千住が人気を集める意外な理由とは

古い話で恐縮だが、およそ50年前、筆者は大学で都市計画を学んだ。当時の都市計画の主要な柱のひとつに「用途純化」という考えがあった。
住宅地には、住宅以外の業務や商業や工業系の建物が混在してはならない。住宅地のなかでも、一戸建て住宅地にはマンションなどの集合住宅が混在すべきではない。さらに、一戸建て地区であっても庭つきの建物が並ぶ良好な住宅地には、狭い敷地いっぱいに家を建てるような貧乏人の住宅が混ざるのはよろしくない。
言うまでもなく、これはアメリカ直輸入の考えだ。アジアの都市は曲がりくねった道路に蜘蛛の巣のような路地が張り巡らされ、住宅や事務所や商店や作業場など、なんでもありが軒を連ねる。まさに「アジアンカオス」。だからアジアは遅れている。筆者はマジでそう教わった。
日本の都市計画は50年間進化していない?
少なくとも法制度の面において、用途純化の考えは今も我が国の都市計画の基本であり続けている。
たとえば、団地は用途純化の典型だ。よそ者にはおいそれと見分けがつかない画一化された建物が並び、住む人たちの年齢も家族構成も、さらに言えば職業や所得水準にも大きな差がない。その団地で今、居住者の超高齢化が進む「団地問題」が深刻化している。用途純化の発想が時の流れを経て生み出した弊害の好例といっていいだろう。
筆者の大学生時代に戻ると、都心は業務や商業に特化すべき場所であり、人が住むには適さない場所だと教わった。これもまた、用途純化の考えに基づいている。だが今、都心居住は世の大きなトレンドだ。六本木ヒルズにも東京ミッドタウンにも赤坂サカスにも、マンションが併設されている。
渋谷のまちづくりの実務担当者と話をしたとき、「再開発ビルになぜ住宅を併設しないのか」という筆者の問いかけに「適切なゾーニング(純化すべき用途の区分け)の設定に基づいており、住機能を主体にしているエリアもある」という答えが返ってきた。
あるいは先日、実態上明らかに住宅地である場所に郊外立地が適している建物の建設が計画され、住民が問題視しているという場面に遭遇した。行政の回答は「用途地域の指定に照らして、ここは良好な住環境を保持すべき場所ではない」という、つれないもの。
どちらの話も、法制度の主旨に照らすと間違ってはいない。と同時に、都市計画は50年間進化していないのかと、ため息も出てしまう。
持家と借家の割合から見える「まちの活力」
お年寄りばかりが目立つまちより、子育て世代の若いファミリー層が集まるまちのほうが活力があるに決まっている。ただし、そこには「今は」という注釈がつく。30年、40年たてば、若い人も年老いていく。高齢化に悩む団地だって、かつて居住者はみんな若かった。その意味では、タワーマンションも団地と似たり寄ったりだろう。
本当に活力があるまちとは、年齢も所得も、あるいは生活価値観もさまざまに異なる人々が混在し、そのニーズにこたえる多様な機能やサービスが充足され、かつ、それらが互いに刺激し合いながら時代に応じた新たな価値をつくり続けていくことができるまちのことだ。
『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた!
