「えっ! あの有馬局長が退任するんですか?」
3月も半ばを過ぎた頃、地元の関係者の知らせに、筆者は思わずそう聞き返した。
2017年11月末、2年後に南海電鉄・和歌山市駅前に新装開館が予定されている和歌山市民図書館の指定管理者に、全国でTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が選定された。そのときのキーマンとして筆者の記憶に深く刻まれたのが、当時、和歌山市産業まちづくり局長の有馬専至氏だったからだ。
市幹部とはいえ、いまどき60歳定年を目前にした退職は珍しくないことかもしれないが、和歌山市が「TSUTAYA図書館」を選択した際の重要人物の退職とあって、「CCCの関連会社に天下りするのではないか」「市長の方針についていけずに辞めたのではないか」などと、次々に疑念が湧いてきた。
同社が運営するツタヤ図書館では、これまで宮城県多賀城市や岡山県高梁市で開館した際に、指定管理者選定に関与した市教委の関係者がCCCに天下るという、あからさまな“癒着事件”が立て続けに起きていただけに、和歌山でも何かあるのではないかと思わずにはいられなかったのだ。
17年11月24日に開催された和歌山市民図書館の指定管理者選考会で最終候補は、全国各地で図書館の運営管理を手掛ける最大手・図書館流通センター(TRC)と、13年に佐賀県武雄市で初めて受託して以来、蔦屋書店とスターバックスを併設した公共図書館の運営に次々と乗り出していたCCCの一騎打ちとなった。
両者の公開プレゼンテーションを見た大方の市民らは「TRC有利」と予想していたのだが、蓋を開けてみると、5人の選定委員が5項目について審査した結果は、CCCがTRCに大差をつけて勝利した。
ところが、後に地元市民が開示請求して出てきた情報を詳しく分析してみたところ、採点結果に、不自然な点がいくつか浮かび上がってきたのだ。
5人の審査員のうち、A~Cまで3人の採点は僅差で、トータルするとややTRCが優勢だった。残るD氏とE氏の2人は、CCCに高得点をつけている。さらに点差を詳しく見てみると、D氏1人だけが、ほとんどの項目でCCCに満点をつける一方、TRCに対しては極端に低い点数をつけていたことが判明した。
もしC氏とD氏によるCCCへの“アドバンテージ”がなければ、完全にTRCの勝ちだった。
市が選定委員の氏名と肩書きを公開している資料を見てみると、民間委員3人が先に紹介されていて、それに続くD氏の位置の四列目が有馬専至局長、E氏の五列目に坂下雅朗館長が紹介されていた。
和歌山市の前・産業交流局長(選定委員当時は、産業まちづくり局長)の有馬専至氏は、1961年生まれ。和歌山市のまちづくりに関するイベントなどでは、ここ数年、市を代表するアドバイザーやプレゼンターとして、必ずといっていいほど名前が出てくる人物だ。
とりわけ、民間主導の行政支援を基本とした官民連携を打ち出した「リノベーションまちづくり」を、市の幹部として積極的に推進していることでも知られている。