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日本発「アビガン」、世界中でコロナ治療の治験が急ピッチ…副作用がことさら強調され過ぎ

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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「アビガン錠」(写真:ロイター/アフロ)

 米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターの集計によれば、新型コロナウイルスでお亡くなりになられた方は4月11日(日本時間)時点、世界で10万人を突破した。日本では7日、安倍晋三首相が改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき緊急事態宣言を発出した。業績悪化や資金繰りに行き詰まりに苦しむ企業も続出しており、医療界のみならず経済界からもいち早い治療薬の開発を求める声が強まるなか、海外からも注目を集めている薬が、白木公康千里金蘭大学副学長(富山大学医学部名誉教授)と富士フイルム富山化学が共同開発した「アビガン」だ。果たしてアビガンは人類の救世主になるのか。

 厚生労働省によると、新型コロナウイルスに関連した国内の感染者数は4月9日時点で4,768例、死亡者は85名となっている。

 こうしたなか、3月28日の会見で安倍首相は「新型コロナウイルスの治療薬としてアビガン(一般名:ファビピラビル)を正式承認に向け、臨床を開始する」と発表した。さらに今月3日の会見で菅義偉官房長官は、現時点で約30カ国から提供要請があるアビガンを、臨床研究を拡大するため、「希望する国に無償で供与するべく調整している」と述べた。

 なぜ、ここにきてアビガンが注目されるようになったのか。白木名誉教授の論文を紹介しながら説明していきたい。

RNAウイルスへの有効性

 新型コロナウイルスに限らず、新薬の開発と安全性の確認には、膨大な時間と費用を要する。いくら急ピッチで治療薬の開発ができたとしても、安全性の検証には慎重さを要する。そうなると、既存の薬の活用に期待が高まる。安倍首相は7日の会見でアビガンへの期待を込めた。

「まったく先が見えない大きな不安のなかでも、希望は確実に生まれています。日本中、世界中の企業、研究者の英知を結集して、ワクチン開発、治療薬の開発が進んでいます。新型インフルエンザの治療薬として承認を受け、副作用なども判明しているアビガンは、すでに120例を超える投与が行われ、症状改善に効果が出ているとの報告も受けています。観察研究の仕組みの下、希望する患者の皆さんへの使用をできる限り拡大していく考えです。そのために、アビガンの備蓄量を現在の3倍、200万人分まで拡大します。国内での増産に必要な原料の生産には、各地の企業が協力を表明してくださっています」。

 これまでにもアビガンは、エボラ出血熱などの治療で高い効果を発揮したことで知られている。エボラウイルスによる全身性の感染症で、重症化すると口や肛門や目など全身から出血し、臓器の機能を奪い、致死率は50~90%と非常に高い。有効な治療法も見つからず、“史上最悪の伝染病”と呼ばれていた。

 3月28日発行の「週刊日本医事新報5005号」に掲載された白木名誉教授の論文には、次のように書かれている。

「アビガンは、RNAウイルスのRNA複製の際に、RNA鎖に取り込まれたところで、RNAの伸長を停止する」

「致死性の高力価インフルエンザ感染モデルでは、タミフル治療で3日ほどの延命は得られるが多くのマウスが死亡する。しかし、アビガンは、すべてのマウスを生存させるという強い治療効果を示した。このRNAウイルスの致死性感染症に対する生存効果は。その後、エボラ出血熱への治療の際に効果を発揮した」

 RNAウイルスは自らが増殖するためにアビガンを“飯のタネ”と間違えて取り込み、取り込まれたアビガンがRNAウイルスを攻撃し、RNAは活動を停止してしまうというわけだ。2015年にフランス国立保健医学研究機構(インサーム)は、ギニアで発生したエボラ出血熱に対する臨床試験の中間解析結果で、アビガンの有効性が示唆されたと発表している。

 では、なぜ新型コロナウイルスにアビガンは有効とされるのか。

 3月21日に発表された白木名誉教授の論文(「週刊日本医事新報5004号」掲載)には、次のように書かれている。

「コロナウイルスはエンベロープを有するので、エタノールや有機溶媒で容易に感染性がなくなる(不活化できる)。RNAウイルスの中で最大のゲノム(遺伝子)を有しており、プラス鎖一本鎖のRNAを遺伝子とする。その長さは約30kb(3万個の塩基)である」

 そして前述の通りアビガンにはRNAウイルスの活動を停止させる機能があるため、国内のみならず海外からも注目を浴びるようになっているのだ。

ドイツ政府、アビガンを大量調達

 3月31日にはアメリカの政治サイト「ポリティコ」が、新型コロナウイルス感染症の治療に有望だとして、アビガンを米国の感染者に投与できるように、米政権幹部らが食品医薬品局(FDA)に迫っていると報じた。今月2日には、ドイツ政府がアビガンを大量調達することが発表された。また9日、富士フイルムホールディング(HD)が、アメリカにおいてアビガンの治験を開始することを発表するなど、その承認に向けて各国から追い風が吹き始めた。

 そこで気になるのは副作用だ。白木名誉教授は3月28日発行の「週刊日本医事新報5005号」」論文で「動物実験において、初期胚の致死および催奇形性が認められた」と報告している。この「催奇形性」がクローズアップされ、一部では「アビガンには猛烈な毒性がある」との噂がひとり歩きしており、実際に筆者が取材しているなかでも、そう発言する人もいた。

 筆者は某機関で治験審査委員を務めており、富士フイルムHDおよび富士フイルム富山化学やアビガンの治験実施機関とは一切の利益関係はないが、治験では関係者に守秘義務が課せられ、多くの人の協力の下で行なわれる。また、動物実験で催奇形性が認められた場合、治験では妊娠中の女性や妊娠を希望する女性やパートナーは実施対象から外される。

 また、実際の臨床現場でも、妊娠中や妊娠を希望する男女には極めて慎重に投薬が行われるため、もし承認されても臨床現場で進んでアビガンを妊婦、妊娠希望の女性やそのパートナーに投与する医師がいるとは考えにくい。

 毒性については、筆者が調べた限りでは、NMPA(中国国家薬品監督管理局)やPMDA(医薬品医療機器総合機構)の公表資料では言及されていない。

アビガン、投薬拡大への2つの課題

 白木名誉教授は4月4日発行の「週刊日本医事新報5006号」に掲載された論文で、「COVID-19肺炎、約6時間で既感染細胞から新たな感染細胞を作り、1日でウイルス増殖の4サイクル分のスピードで感染が肺内で広がる」と指摘する一方、「中国・深圳の病院で実施した臨床試験では、アビガン群ではウイルス消失までに4日」と報告している。

 アビガンは錠剤であるので人工呼吸器を付けた感染者には投与できないという側面もあるため、一日も早く診断してもらうことが何よりも大切だ。そうなると課題は2つある。ひとつは、診断には不可欠な遺伝子検査キットの不足が叫ばれていること。ここにきて、厚生労働省から製造販売承認されて販売が開始された遺伝子検査キットも増えだした。検査時間も短縮されたキットも発売され、大いに期待したい。

 もうひとつは、現時点では未承認薬なので患者が希望しても投与されないことだ。医師が緊急事態を想定して病院内で入手を申し入れても、薬剤部にルートがないからと断られた実例もある。新型コロナウイルス感染者は感染症指定病院が受け入れをするからだった。しかし、軽症者のホテルでの受け入れが始まるなど、感染症指定病院の受け入れにも限界が出始めた。3月28日の会見で安倍首相は、アビガンの治験開始は「臨床研究拡大のため」と述べていたが、各病院内に設けられている倫理委員会に「臨床研究」を目的に諮ってもらえるようにするのはどうか。倫理委員会を通して医療機関で臨床計画書を立案して実施するのなら、一般の方の要望に応える可能性が開くかもしれない。

 臨床現場では、医師たちは不足したマスクを補うために、クリアファイルをシールド代わりに、昼夜を問わない献身的な治療を行なっている。これもひとえに、医療崩壊にくさびを打ち、患者さんを救うためだが、医師や看護師など医療関係者にも感染が広がっている。妊婦や小さな子どもを持つ保護者にも不安が広がるばかりだ。

 10日、自衛隊中央病院(東京)と防衛医大病院(埼玉県)でも治験が開始された。各国でアビガンの治験も始まろうとしている。アビガンが人類の救世主になるか、一日も早く治験の結果が出ることを期待したい。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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