人生100年時代と呼ばれるようになってから、「健康寿命」や「QOL」といった、人生の「質」が注目を集めるようになっている。せっかく長生きするなら、頭も体も毎日を楽しめる状態で長生きしたいもの。ただ、体も脳も加齢とともに衰えていくのは避けられない。特に認知症は多くの人にとって、年齢を重ねるうえでの懸念事項だろう。
本当の「脳トレ」は「脳トレ本」の中にはない
70歳、80歳になってもしゃっきりした頭で、旺盛に考えて、言葉もすらすら出てくる。そんな老後を迎えるためには知っておくべきことがある。『いつまでもハツラツ脳の人』(和田秀樹著、日刊現代刊)はそのためのアドバイスをくれる一冊だ。
今のうちから脳を鍛えておけば、認知症予防になる。そんな考えから計算問題やパズルなどで「脳トレ」に励む人は多い。ただ、その効果については否定的なものが多いそう。アメリカ・アラバマ大学が高齢者約2800人を対象に言語の記憶や問題解決能力、問題処理能力を上げるトレーニングを実施したところ、課題として出題したテストの点数は上がったものの、その他の認知能力に対する波及効果は得られなかったという。つまり、「脳トレ」で計算問題やパズルをやっても、それ自体はうまくなるが認知症対策としての効果はあまり期待できない、という結果になったのである。
本書では、本当の「脳トレ」は「脳トレ本」の中にはない、とし「頭を回転させる上で最も有効なのは他人との会話」だとしている。相手の話を理解して、瞬時に適切な反応をする。会話はより高度な「脳トレ」なのだ。
情報は「入れるだけ」では脳の衰えに抗えない
また、脳の中でも加齢とともに衰える傾向がより強いのが「海馬」という部位。覚えていた情報を忘れてしまったり、思い出せなかったりするのはこの海馬の衰えが原因と考えられているそう。
忘れることを防ぐためにはインプットした情報を定期的に書き記したり、声に出したりしてアウトプットすることが大切になる。情報は入れっぱなしにするよりも、出した方が記憶に定着するのだ。
もっといえば声に出すよりも、書く方が効果的。生活の中で頭をよぎった所感や心を動かされたこと、気になったことをメモしたり、文章として残したりすることは、海馬の衰えを遅らせることにつながるだけでなく、自分なりのものを作り上げた達成感にもつながる。どちらも脳の若さを保つためのいい材料なのだ。
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いつまでも素早く回転する頭で生活するためには、日ごろのちょっとした訓練が必要だ。それは最初は面倒かもしれないが、定着してしまえばさして負担にはならないものばかり。
本書は本当に脳にいい暮らしとはどのようなものかを教えてくれる。何歳になっても毎日を楽しめる人でいるために、得られるものが多い一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。