しかし、怒りが湧き上がる前に「相手は最善の選択をしている」と考えて立ち止まることで、相手の言葉に耳を傾ける余裕ができるというのだ。実際に、この方法で虐待をしなくなった親もいるという。
「更生プログラムはカウンセリングではなく、感情のコントロール法を実践的に学ぶのが特徴です。すべてのプログラムを終えた人の表情は、初回とは比べものにならないほど穏やかなものになりますね。何より、身近にいるDV被害者が『本当に変わった』と言ってくれます」(同)
DVは親から子への“負の連鎖”
しかし、栗原さんは8年の活動を通じて「DV加害者本人の更生だけでは不十分」という現実も知った。
「更生プログラムを受ける加害者は、幼い頃に親からの身体的、精神的な虐待を受けていた人ばかりです。怒りを暴力や言葉の暴力のみで表す親に育てられれば、その子どもも暴力でしか自分の怒りを伝えられなくなります。ケースによっては、虐待していた親を呼び、加害者に謝罪してもらうこともありますね」(同)
親からの謝罪を受けた加害者は、それを機に前向きにプログラムに取り組むようになるという。DVは親から子に受け継がれてしまう“負の連鎖”にほかならないのだ。
「被害者の場合も同じ。『妻は夫に従うもの』という家庭で育った妻は夫に反抗するという発想に至らず、支配関係が成立してしまいます。なので、更生プログラムの一環として被害者の面談も行う必要があるんです」(同)
もはやDVは「家庭内の問題ではなく、国が取り組むべき課題」と、栗原さんは語る。
「日本では、大きな事件にならなければ加害者を逮捕することもできず、再犯率も高いことでも知られています。アメリカのように民間の更生支援団体と連携して加害者が正しい更生プログラムを受けていれば、起きなかった事件はたくさんあったのではないでしょうか」(同)
事件そのものよりも「なぜDVが起きてしまうのか」に目を向け、社会全体がその改善に取り組んでいくことが、DVを根絶するための一歩となるのだ。
(文=真島加代/清談社)
●取材協力/栗原加代美(くりはら・かよみ)
NPO法人女性・人権支援センターステップ理事長。同団体にて、DV・ストーカー加害者更生プログラムの講師を務めながら、被害者の相談をはじめ、DVやストーカー防止のセミナー講師として活動する。