知らないうちに食中毒に感染のリスクも
一方、意外と衛生的なのが、洗った食器をそのまま食器置きに放置しておく「自然乾燥」だ。
「菌の増殖には水分が必要なため、水気がある場所で増殖しますが、分裂し始めるのは数時間後。食器はそれより早く乾いてしまい、菌の増える間がないのです」(同)
水滴のついた食器を放置するのはなんとなく不衛生な感じがするが、たとえ空気中に多くの菌が飛散していたとしても、食器に落ちてくるのは数個から数十個程度。生乾きのふきんを使うよりも、はるかに清潔なのだ。
しかも、自然乾燥と清潔なふきんで拭くのは、どちらも同程度に衛生的だという。食器置きで自然に乾かすのと毎回新しいふきんに取り替える手間をくらべた場合、どちらが現実的かはいうまでもないだろう。
ただし、いくら気を使っても、菌というのはどこにでもいるもの。気にしすぎるのも不毛な気がするが、李氏によれば、「菌に対して神経質すぎるのも、無防備なのもよくない」という。
「ふきんでも、においがしないうちは使っても大丈夫だと思うかもしれませんが、目には見えていないだけで、実は食中毒菌が潜んでいる可能性もあります。生乾きのふきんから病原菌に感染・発症する確率はそれほど高くありませんが、そのリスクをわざわざ取る必要はないのです」(同)
毎日使うふきんが不衛生だと、1回の使用で病気にならなかったとしても、それを積み重ねるうちにリスクはどんどん高まっていく。菌は目に見えないからこそ、繁殖するような環境をつくるのはできるだけ避けるべきなのだ。
また、菌の姿が見えないと、人の衛生観念は意外と感覚的になりやすい。例えば、家族や自分の食器を拭いたふきんなら生乾きでも平気だが、よその家庭のふきんには抵抗がある、というのはその典型だ。しかし、実際は誰が使ったものでも、菌であることには変わりがないのである。
食器をふきんで拭くのは日本人だけ?
それでも「食器を濡れたままにするのは抵抗がある」という人におすすめなのが、「キッチンペーパー」だ。使い捨てのキッチンペーパーには菌もほとんどついておらず、これで食器を拭けばより衛生的だ。
「食器やテーブルをふきんで拭くのは日本でよく見られる光景ですが、実は、世界的に見るとキッチンペーパーも多く使用されています。『キッチンペーパーを使い捨てるのはもったいない』と思うかもしれませんが、鼻をかんだり、紙オムツを使ったりと、違う場面では大量に使い捨てを消費しています。食器を拭く紙をもったいないと感じるのは、単なる習慣的なものかもしれませんよ」(同)
日本人の1人当たりの紙の使用量は、世界でもトップクラス。それなのに、なぜか食器を拭くために使うのはもったいないと感じてしまう。不衛生だからといってふきんを毎回取り替えれば、それこそ洗濯にかかる水道代が無駄となる。
細菌が繁殖しやすいこの季節、まずは「ふきんで拭くほうが清潔」という思い込みからくる習慣を変える必要があるようだ。
(文=松原麻依/清談社)