仕事や所得、生まれ育った家庭や地域などの環境による格差が健康状態まで左右してしまう「健康格差」。一般的には、低所得者であればあるほど疾患リスク、つまり病気になる可能性が高いと考えられている。
しかし、健康格差の実態は「貧困層」だけでなく、中所得層にも及び、格差が大きい社会では高所得層の健康も蝕むなど、想像よりもはるかに深刻なのだ。
低所得の高齢者はがん死亡率が2倍?
「健康格差は、生育環境や学歴や雇用形態など、実にさまざまな要因と連動しています」と語るのは、『「健康格差社会」を生き抜く』(朝日新聞出版)の著者で社会疫学者の近藤克則氏だ。
「たとえば、母親の栄養や健康状態が悪く低体重で生まれた子どもは、将来糖尿病になる確率が普通体重で生まれた子どもの5倍以上。母親のお腹にいるときから、すでに健康格差は生じているのです」(近藤氏)
普通体重で問題なく生まれたとしても、成人後に健康的な生活を送れるかどうかは、幼年期の家庭環境に大きく左右されるという。
「経済的に厳しく両親が働き通しであれば、手料理を食べる機会が減り、子どもは安いインスタント食品や出来合い物中心の食事になりやすい。そうなると十分な食育がなされず、大人になっても不健康な食生活になる可能性が高くなります。
また、家庭の収入は子どもの学歴にも影響を及ぼします。きちんとした教育を受ける機会がないと、親だけではなく、子どもも貧困層に組み込まれやすくなる。もちろん、所得が低くても健康的な生活を送る人もいますが、全体的に貧困層ほど安価で高カロリーな食事に偏りやすく、喫煙や運動不足など、不健康な生活習慣に陥りがちなのです」(同)
実際、近藤氏が要介護者の割合を所得階層別に調査したところ、平均すると低所得層(給与所得控除後の総所得が0万円。夫婦で公的年金のみの場合で約175万円未満)の要介護者は17.2%に上ったという。これは、高所得層(同所得200万円以上に加え公的年金175万円以上)の約5倍にあたる。
また、65歳以上の高齢者約1万5000人を対象とした調査では、男性のうち年収200万円未満の人の死亡リスクは年収400万円以上の人の約3倍、がんの死亡率に絞っても約2倍だったという。
『「健康格差社会」を生き抜く』 「所得の格差」が「いのちの格差」まで生む「健康格差社会」。高齢男性の低所得者は「うつが7倍」「死亡率が3倍高い」のはなぜ? それだけではない。「負け組」だけでなく、「勝ち組」さえも病んでゆく。だれもが不健康になっていくのが、「健康格差社会」のほんとうの恐さ! 米国に追随し、日本もそうなりはてるのか。処方箋はないのか。