低所得者は7倍もうつになりやすい
さらに問題なのは、この健康格差が体だけに関係するわけではないことだろう。格差は精神面にも影響し、近藤氏によれば「貧しくて低学歴の人ほど、多くのストレスにさらされ『うつ』が多い」というのだ。
「男性に限ると、年収400万円以上の人のうち、うつ状態にあるのが2.3%に対し、年収100万円未満の人では15.8%に跳ね上がります。両者の間では、約7倍もの差があるのです。不眠の割合も、年収400万円以上は48.9%ですが、200万円未満の人は60.1%です」(同)
学歴が低ければ非正規雇用に就く確率が高くなり、時給800円未満なら労働基準法の範囲内で目一杯働いても収入は生活保護受給者以下となる。このワーキングプア状態がどれだけ精神的負荷となるかは、容易に想像がつくはずだ。
こうしたメンタルヘルスの問題は、成人後の所得や労働環境だけに原因があるのではないという。
「不眠やうつといった問題は、子どもの頃の逆境体験が影響していることも考えられます。虐待をはじめ、親との離別や死別などの体験をしている人は、それから50年たったあと、高齢期の経済状況の影響を差し引いても、うつになる可能性が1.3倍高いのです」(同)
精神面の影響を含め、これらの健康格差は何かひとつのことが原因で生まれるものではない。健康を脅かす要因が蓄積されることで、重層的にのしかかってくるのだ。
「なかには、不健康な人に対して『健康管理ができていない』と非難する人もいます。しかし、生まれる家庭や地域の環境は自分ではコントロールできません。スタートラインから違っているのに、そうした点を考慮せず、『健康管理ができないのは自己責任』と言うのは、あまりに乱暴な意見です」(同)
現在、日本は非正規雇用者が4割を超え、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2012年)によれば子どもの16.3%が貧困状態にあるという。近藤氏は「健康格差をもたらす要因を放置する社会は、時限爆弾を抱えているようなものだ」と警鐘を鳴らす。
「このまま、子どもの貧困や非正規雇用などに、なんの対策もなされないと、健康を損ない要介護になる人が爆発的に増える恐れがあります。特に、スタートラインを公平にする意味でも、子どもの貧困対策は重要です。これは、個人でどうにかなる類のものではありません。国や社会として是正すべき問題なのです」(同)
『「健康格差社会」を生き抜く』 「所得の格差」が「いのちの格差」まで生む「健康格差社会」。高齢男性の低所得者は「うつが7倍」「死亡率が3倍高い」のはなぜ? それだけではない。「負け組」だけでなく、「勝ち組」さえも病んでゆく。だれもが不健康になっていくのが、「健康格差社会」のほんとうの恐さ! 米国に追随し、日本もそうなりはてるのか。処方箋はないのか。