前立腺がん診断にはリスクがこれだけある
PSA検査は、前立腺がんの早期発見のためには有益な検査だが、健康な人にはリスクもある。
PSA値が高い場合、前立腺がんと肥大症や炎症などの良性の病気を鑑別する必要がある。さらにかぜや飲酒、射精も一時的にPSA値を上昇させることが知られている。したがって、専門医のいる医療機関で、PSAの再検査、経直腸的超音波検査(エコー検査)、直腸診などを行う。
さらに、これらの精密検査で前立腺がんが疑われる場合には、確定診断のため前立腺針生検が必要になるのだ。
前立腺針生検には感染症、出血、痛みなどの合併症が生じることがある。また、仮にがんであっても、進行の遅いがんに不必要な治療を行うことになる可能性もあり、診断による精神的苦痛も無視できない。
研究共著者である米ブラウン大学公衆衛生学部助教授のAnnie Gjelsvik氏によると、リスクとベネフィットを十分に把握しないまま検査を受ける可能性が高かったのは、低所得、高卒未満、健康保険未加入、ヒスパニックの男性であった。
2012年のUSPSTF勧告以前は、PSA検査のリスクとベネフィットについて医師と話し合っていた患者は30%、まったく話していない患者は30.5%、ベネフィットについてのみ話し合った患者が40%弱であった。
その2年後に11万1000人超の男性を対象とした調査では、この割合はほとんど改善しておらず、それぞれ30%、34%、36%であった。2012年にPSA検査を受けた男性の比率は63%で、2014年はやや減少して62%であった。
Turini氏らは、医師がPSA検査のリスクとベネフィットについて患者と包括的な話し合いをする必要があるとの考えを述べている。
不必要な検査で増えるPSA難民
日本での前立腺がん罹患数は2014年で7万5400人。胃がん、肺がんに次いで第3位だったものが、2015年の罹患数は9万8400人で第1位となった(2015年人口動態統計月報年計の概況)。こうした背景もあり、前立腺がんの検診を推奨する自治体や医慮機関も少なくない。
確かに、PSA検査が前立腺がんの早期発見に有効な検査であることには間違いがないようだが、早期発見がそのがんの死亡率の低下にはつながらない。
前立腺がんは高齢になればなるほど発症しやすくなる。患者が非常に高齢であった場合にPSA検査を行い前立腺がんを発見できたとしても、がんの治療そのものが体に負担をかけ、死期を早めてしまう可能性もある。
巷には「PSA難民」という言葉がある。PSA値が高いにもかかわらず、がんが発見されない宙ぶらりんな状態で悶々と苦しむ患者がたくさんいる。検診についての正しい知識や理解が乏しいまま、異常値の結果が出た場合、事態を深刻に捉えすぎて大きな不安を抱え込んでしまうことになりかねない。
では、PSA検査は受けるべきか、それとも受けないでもいいものなのか。
国立がん研究センターが運営する「がん検診ガイドライン」の前立腺がんの項目(http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/zenritsusengan.html)では、PSA検査を「推奨グレードI」としている。つまり推奨しないということだ。
それによると「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現状では不十分であるため、現在のところ対策型検診としては勧められません。任意型検診として行う場合には、受診者に対して、効果が不明であることと、過剰診断などの不利益について適切に説明する必要があります」と説明されている。
この6月には国立がん研究センターから前立腺がんの検診ガイドラインが公表されるというが、今後、個人がPSA検査を受けるかどうかを自己決定しなければならなくなる。もちろん、医療関係者や自治体への啓蒙活動も必要となろう。
(文=ヘルスプレス編集部)