夏野菜の代表・トマトは南米アンデス地方原産で、15世紀の大航海時代にインゲンマメ、トウモロコシなどと共にヨーロッパへ持ち込まれました。
トマトの原種は、アルカロイドと呼ばれる苦み成分をつくり出します。アルカロイドはトマトが害虫から身を守るためにつくり出す物質ですが、人間も苦みを「毒の味」と感じるため、トマトは毒のある植物とみなされ、ヨーロッパでは19世紀まで主に観賞用植物として扱われました。
もちろん、現在市場に出回っているトマトは品種改良を行い、アルカロイドをつくらない品種がほとんどなので、人間に対して毒性はありません。
日本人は、アンデスの人々同様にトマトが好きな人種です。トマトが好まれる理由は、糖分が低いため夏にぴったりなみずみずしいさわやかさがあり、0.3%ほど含まれるグルタミン酸は日本人の大好きな昆布のうまみ成分と同じ物質だからです。
ハンバーガーに薄切りトマトを1枚挟むだけでハンバーガーの風味が大きく変わるように、トマトは肉料理、卵料理、米料理から麺類に至るまで、あらゆる料理で彩りや風味を増すために活用されています。
ところで、店頭に並んでいる一般のトマトと木にぶら下がって完熟したトマトとでは、まったく味が異なることをご存じでしょうか?
完熟トマトは糖分が増して甘くなり、さらにフラネオールという香り成分が実の中に蓄積されるため、果実っぽい風味になります。一方で、店頭に並んでいるトマトの多くは緑色の段階で収穫された後に赤くなるため、それらの成分が蓄積しておらず、果実というよりは野菜らしい味がします。日本人は前者の完熟トマト、欧米人は後者の野菜トマトが好きな傾向があるようです。
フラネオールは、イチゴの代表的な香り成分であることからストロベリーフラノンとも呼ばれ、パイナップル、ブドウ、ソバの香り成分でもあります。
人間はフラネオールに対して非常に敏感なので、最新の分析装置でも検出できないほどの微量も風味として感じ取ることができます。ワインのようにフラネオールを含む植物を原料とした加工食品の芳醇な香りにも寄与していると考えられますが、どのような食品にどの程度含まれているのかは、まだよくわかっていません。
トマトのリコピンが有害な活性酸素を中和する
夏野菜と呼ばれるものには、トマトのほかにキュウリ、ピーマン、ゴーヤなどがあります。夏にこれらの野菜を食べるのが良しとされているのには、理由があります。
夏の強い日差しを浴びると、紫外線が皮膚の細胞の中にまで到達して、細胞の中で活性酸素をつくり出します。トマトやピーマンは抗酸化物質のリコピンを豊富に含み、有害な活性酸素を中和する作用があります。キュウリやゴーヤは、汗として失われてしまうカリウムやミネラルを豊富に含みます。
このように、夏野菜には私たちが暑い季節に必要としている栄養分が豊富に含まれているのです。夏バテ対策としても、これらの野菜を積極的に摂取したいものです。
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』 野菜を食べると体によい。牛肉を食べると力が出る。食べ物を食べるだけで健康に影響を及ぼし気分にまで作用する。なんの変哲もない食べ物になぜそんなことができるのか? そんな不思議に迫るべく食べ物の体内動態をちょっと覗いてみよう。