トマトは別名「赤茄子」とも呼ばれ、俳句の世界では晩夏の季語です。戦前日本の俳人・種田山頭火(たねださんとうか)は、山口県の大地主の長男として生まれました。
ところが、俳人として有名になりつつあった大正5年、家業の酒造業に失敗して種田家は破産、その後は乞食同然の托鉢の旅を続けながら、多くの俳句を残しました。困窮した生活のためか、食のありがたさや「自然によって自分は生かされている」という実感がほとばしる現実描写的俳句が多く、トマトについても、
「夕立晴れたトマト畑に出て食べる」
と詠んでいます。
このときに山頭火が食べたトマトは、木になったまま真っ赤に熟したもぎたて完熟トマトだったはず。フラネオールが山頭火の全身を満たし、生きている喜びを心から実感した瞬間に思わず出た句ではないかと思います。
夏バテ対策に有効な「生トマトに醤油」
さて、暑い夏にぴったりのトマトですが、「トマトケチャップは好きだけど、生のトマトは嫌い」という人は意外と多いものです。
トマトが嫌いな理由として、もっともよく耳にするのは「中心部分の種を含んだグジュグジュの半液体ゼリー質がすっぱくておいしくない」というものです。しかし、このゼリー質には疲労回復や美容にいいとされるクエン酸やリンゴ酸が豊富に含まれているため、実は夏に最適な部位です。
そこでオススメなのが、「生トマトに醤油」です。醤油には「抑制効果」という、酸味の強い食品の味に丸みをつける効果があります。また、食欲を増進させ、唾液や胃液の分泌を促して食物の消化吸収を助ける作用があるため、夏バテ対策としてトマトとの相乗効果が期待できます。
生のトマトが苦手な人は、ぜひ一度、たっぷりの醤油でトマトを食べてみてください。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)
【参考資料】
「食品成分データベース」(文部科学省)
「しょうゆ豆知識」(ヤマサ醤油)
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』 野菜を食べると体によい。牛肉を食べると力が出る。食べ物を食べるだけで健康に影響を及ぼし気分にまで作用する。なんの変哲もない食べ物になぜそんなことができるのか? そんな不思議に迫るべく食べ物の体内動態をちょっと覗いてみよう。