しかし、東日本大震災以降、すごく日本人の意識が変わってきたと感じています。そこで、今ならすごくchange.orgが根付くポテンシャルがあるのではと考えて、拠点を開設することにしたのです。日本でうまくいけば、韓国や中国のサポートもこちらからできますからね。
ただ、欧米ではすでにオンライン署名が普及しているため、「普段行っているオンライン署名をchange.orgでやりませんか?」というアプローチになりますが、日本の場合は、そもそもオンライン署名に馴染みがなく、それが何か? というところからユーザーを啓蒙していかなければいけないので、時間がかかります。今ではむしろそのほうがやりがいがあると思い、頑張っています。
–日本事務所のスタッフは何人ですか?
鈴木 3人です。私の仕事は、サイト運営とキャンペーンの発起人に対するサポートで、サイトの使い方に関する対応だけでなく、盛り上がっているキャンペーンをメディアに紹介するというような広報的な後押しもしています。3つ目は、change.orgというブランドを浸透させるための活動です。できるだけメディアへの露出を増やし、私たちがどういう団体なのかを説明するとともに、オンライン署名の啓蒙活動も行っています。
わずか3人で国内10~15万人くらいをサポートしているわけですが、無数の人が活動できるプラットフォームを少人数で運営していけるようにしなければと思っています。
●誰でも立ち上げられ、現実的問題を解決する
–日本で立ち上がったキャンペーンで、具体的に問題解決につながった事例を教えてください。
鈴木 昨年、ベルギーを拠点に活躍している日本人バイオリニスト、堀米ゆず子さんがドイツの税関にバイオリンを押収された事件を受け、「堀米さんの所有するバイオリンがフランクフルト国際空港税関で押収され、巨額の輸入付加価値税の支払いを求められています。“仕事の道具”であるバイオリンは、無税として扱われるべきです。ドイツ政府にメッセージを送り、フランクフルト空港税関が堀米さんのバイオリンを無償で返すよう、呼びかけましょう」というキャンペーンが立ち上げられました。2週間で5000人の署名が集まり、それを駐日ドイツ大使に届けたところ、次の日に無償でバイオリンが戻されました。
このキャンペーンを立ち上げた門多丈さんは、サラリーマン生活が長く、趣味はクラシック音楽という普通の人です。しかも、Facebookをやる以外は、ほとんどインターネットにアクセスすることはないそうです。そういう人でも、これだけ影響力のある活動を達成できるのです。
また、上智大学3年の堀慎太郎さんは、「上智大学では休学時でも年間授業料の3分の1を支払わなければならず、他大学と比較しても大変高額。学生の選択肢と可能性を経済的な理由から狭めることになる」とキャンペーンを立ち上げ、オンラインとオフライン合わせて約1000人の賛同を集めて学生センターに提出しました。その後数カ月くらい粘り強く交渉したところ、休学時に支払う料金は13年度から年間6万円、半期3万円に引き下げられることになりました。
最近の事例では、「松江市教育委員会は『はだしのゲン』を松江市内の小中学校図書館で子どもたちが自由に読めるように戻してほしい」と立ち上げたキャンペーンが多くのメディアに取り上げられ、話題になりました。立ち上げからわずか4日間で、1万6000人を超える署名が集まりました。キャンペーンを立ち上げた樋口徹さんは、8月26日、松江市教育委員会に集まった署名を提出し、同日に開いた臨時会議の中で教育委員会は、「手続きに不備があった」と閲覧制限を撤回し、学校の自主性に任せることが決まりました。
–署名でそこまで現実の社会を動かせるとは、驚きです。
鈴木 従来であれば、10万筆単位で署名を集めるには、署名活動を組織化して、全国的な規模で展開しなければなりませんでした。しかし、change.orgの機能を使えば、個人でも数万筆単位で署名を集めることが可能性です。つまり、これまでは「自分一人が叫んでも、社会問題を解決することはできない」と何もせずに終わっていたような場合でも、change.orgのサイトでキャンペーンを立ち上げることで、世界中に情報を発信でき、賛同者を募ることが可能になったわけです。
現在日本のユーザー数は10万人程度ですが、その数は着々と増えていますし、キャンペーンを立ち上げる人も多くなってきています。それとともに、成功事例も増えてきました。日本でも主体的に動き、自分たちで社会を変えていこうとしている人たちがどんどん増えてきているのではないか、という実感を覚えています。
●一企業としてのビジネスモデル
–change.orgの運営資金は、どのように賄っているのでしょうか?