そうした事態を防ぐには、政策的に新薬の薬価高騰は許容すべき問題なのかもしれない。どうしても、その医薬品が必要であるにもかかわらず自費で払えないようなケースは、すべて「高額医療費助成制度」の補助対象にしたうえで、製薬会社にはある程度自由な価格設定を認めて開発費を回収させる道を開くという考え方である。その一方で、健康保険の対象は米国並みの低価格なジェネリック医薬品に限定するぐらいの大胆な対応が求められているのかもしれない。
また、政府は生活保護受給者などを対象にジェネリック医薬品の利用を推奨しているが、むしろ政治家や官僚、公務員にジェネリック医薬品を使わせるといった、その薬効への信頼性を高めるような努力がほとんど講じられてこなかったことも、政府の怠慢だろう。医師や患者の間には、依然としてジェネリック医薬品の効能に対する不安があるというが、早くから彼らが率先してジェネリック医薬品を利用する体制にしていれば、その種の根拠のない不安はとっくに解消していたはずである。
このほか、ジェネリック医薬品の名称表示がわかりにくいため、普及の阻害要因になっているという意見がある。また、医師が点数稼ぎで薬品の処方箋を乱発する状況を放置していて、本当に国民医療費の節約ができるのか、といった声も根強い。これらの指摘には真摯に耳を傾けて、対策を講じなければならない課題だろう。
二度にわたる日本銀行の黒田バズーカ(異次元金融緩和)によって、日本国債を日銀が買い支えているとはいえ、そのキャパシティにも限界がある。それだけに、医薬品に対する歳出の抑制と財政の健全化に失敗すれば、海外の日本経済に対する信任が揺らぐ事態になりかねない。安倍政権は今一度、行革会議の中間報告を見直すなど、医療費の抜本的な節約策を再検討してみるべきではないだろうか。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)