住宅難民が増加する背景を知るためには、韓国特有の賃貸制度である「チョンセ(伝貰)」について知る必要があるだろう。
韓国には2種類の賃貸制度がある。ひとつは日本の賃貸とまったく同じように、入居時に敷金・礼金を払って毎月の家賃を払う「ウォルセ(月貰)」だ。もうひとつがチョンセで、入居時に賃貸する物件価格の半分から3分の1ほどの金額を“保証金”として預ける制度だ。例えば、借りようとしている物件の実売価格が1000万円の場合、保証金を350~500万円ほど現金で不動産オーナーに預けて物件を借りるという手順だ。多額の保証金を預けてしまえば、後は契約が切れるまで月々の家賃はタダ。さらに、契約満了時には預けた保証金が全額返却されるという、ちょっと信じられない制度だ。
保証金が全額返済されるため、不動産オーナーには利益がないように思える。しかし、チョンセもしっかりとした不動産経営のひとつだ。
まず前提として、チョンセが誕生した1990年代の韓国には、銀行の定期預金の利子が10%近くあった。そのため、2000万円の保証金を預かれば、それを預金するだけで年に200万円の利子を受け取ることができる。月に換算して約16万円強の利益を得ることができるため、十分に収益が見込めたのだ。
また、チョンセを利用した不動産投資も多い。例えば、不動産の価格の上昇が見込める物件を1000万円で購入したとする。そこで、物件を借りたい人から保証金として500万円を受け取り、物件購入の補填に充てれば、購入者にかかる費用は半額で済む。そうして購入しておいて、見込み通りに物件の価値が上がれば、売却時に保証金を返したとしても利益を得ることができるというわけだ。
しかし、これは高金利が保障され、なおかつ不動産価格が上昇することを前提に成り立っていた賃貸制度だ。近年、韓国の定期預金の金利は1%台にまで引き下げられ、保証金の金利を利用した収益の確保は難しい。