徒労に終わった追加緩和策予測
10月30日正午前、東京都中央区日本橋の日銀本店の記者クラブはざわめいた。「あまりにも早くないか」――通常、政策決定会合の内容の発表にはいくつかの段階を踏む。まず、記者クラブに日銀の若手広報が出向き「しばらくお待ちください」と待機を促す。それから15~20分で「広報ルームにお越しください」と場所を移す。広報ルームでも20分待たされ、その後、発表要旨のペーパーが配られる。つまり、最初のアナウンスから40分前後で内容がわかる。午前中に広報からの待機指示が出たということは、12時半前後には大勢が決する。物価見通しなどを盛り込んだ「展望リポート」を発表する決定会合としては、前回の4月が13時4分、追加緩和に動いた前年10月末は13時44分。昨年から1時間以上早い決着に、「今回はおそらく無風だろう」との安堵感が記者の間に広まった。
今回は、多くの記者やアナリストが政策維持を予想していた。「直前に欧州中央銀行が12月の追加緩和を示唆したことや中国が利下げに踏み切ったことで、円高進行や株価の大幅下落への懸念が払拭された」(外資系アナリスト)。それでも、今回は日銀が追加緩和に動くとの見方がくすぶり続けた。
「展望リポート」では、物価上昇目標を下方修正するのが避けられない。仮に2%の旗印を掲げ続ける場合、日銀がなんらかの政策変更に踏み切らなければ日銀の信認が揺らぐと指摘するアナリストは少なくなかった。
何よりも昨年、直前まで追加緩和の必要性を否定しながらも、市場をだまし討ちするような格好で緩和策に動いた記憶が鮮明だ。実際、米通信社ブルームバーグの調べでは会合前には主要エコノミストの約半数が追加緩和を予測。一般紙の報道は一週間前から増えたが、追加緩和か現状維持か、どっちつかずの内容に終始した。
ふたを開けてみれば、黒田東彦氏の総裁就任後、展望リポートの会合としては最速の発表。黒田総裁も会合後の会見で「追加緩和の議論はなかった」と語ったことから、リフレ派と呼ばれる政策委員からも現状維持に異論が出なかったのだろう。
展望リポートでは、焦点のコアCPI(生鮮食品を除いた消費者物価指数)の見通しを、2015年度は0.1%と7月時点の0.7%から引き下げた。16年度も1.4%と従来の1.9%から下方修正した。2%の達成時期も16年度前半頃を16年度後半頃に先延ばししたが、黒田総裁は「エネルギー価格の下振れによるもの」と述べ、「2%は達成する」「物価の基調は着実に改善」と繰り返した。