リフレ派委員も2%達成をあきらめた?
確かに黒田総裁が繰り返し強調してきたように、エネルギー価格を除けば、物価の基調は改善している。日銀が7月以降に重視し始めた生鮮、エネルギーを除く9月の物価指数は1.2%に上昇。「物価の基調論」は崩れておらず、従来の日銀のロジックに従えば、追加緩和は必要ないというわけだ。
とはいえ、日銀が新たに持ち出した指標でも物価上昇は1.2%にとどまるのが実態。「2年程度で2%」は掲げることに意味があるとはいえ、政策委員会の中で議論がなかったことは、「もはやリフレ派の委員も2%達成を事実上あきらめ、目標の柔軟化を視野に入れ始めたのだろう」(アナリスト)との見方が会合後に市場では支配的だ。
もちろん、海外経済の不透明感や米国の利上げ時期の後ずれなど、残り少ない緩和カードを温存した可能性はある。現行の金融政策の延長線上で、国債の追加買い入れが濃厚だが、買い入れ余地は大きくない。国債保有額は300兆円を超え、発行残高の3割に迫る。「これまで3年半経過して、描いていたシナリオに比べて相当下振れしている。延長線上で追加緩和したところでどこまで効果があるのか。財政出動との合わせ技でしか効果は期待できないだろう」(同)。
日銀の信認失墜をどう食い止めるのか
実際、官邸周辺では追加緩和策への期待は急速にしぼんでいる。来年の参院選を控え、地方の中小企業などへの円安の弊害を懸念する声も高まっている。日銀執行部も今回の決定会合を見る限り、物価上昇率のみを重視しない姿勢を強めている。最も注視しているのは賃金の動向だろう。
追加緩和以降、円安の追い風もあり、企業収益は過去最高水準にあるが、名目賃金の上昇ペースは緩やかで、実質賃金はようやくプラス圏に浮上した。投資のもたつきに見られるように経営者のデフレマインドは払拭できていない。日銀が描いた金融緩和の波及メカニズムが循環しているとはいいがたい。ただ、追加緩和に踏み切ったところで、円安進行によって物価のみが上昇していけば消費は冷え込むジレンマを抱える。
黒田総裁は会見で「2年程度を念頭に置くことが無理だとか無駄だとは思っていない」と語った。「2年で2%」は掲げることに心理的意味があるとはいえ、物価目標達成時期の16年度後半は金融緩和を始めて足かけ4年半になる。朽ち果てた御旗を掲げ続けることに日銀内部でも「来年度後半に2%から遠のいていた場合、どうするのか。さすがに信認が揺らぐ。目標の柔軟化を対外的にもアナウンスするしかないだろう」との声も出始めている。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)