これに対して国立市は、上原氏の施策や言動が「建築基準法に違反しないマンションの建築・販売を阻止することを目的に、周辺住民に妨害行為が広がることも期待しながら、明和地所の適法な営業行為を妨害するものだった」と指摘。その取り組みは「行政の中立性・公平性を逸脱した急激かつ強引な施策の変更で、異例かつ執拗な行為であり、社会通念上許容される限度を逸脱している」と主張した。
一審判決は、国立市議会が13年12月に上原氏への賠償請求権を放棄する議決をしたのに、現在の佐藤一夫市長がそれに従わずに請求を続けることが「権限の濫用や信義則違反」に当たるとして、上原氏勝訴の直接の理由とした。上原氏の当時の行為についても、違法性の高いものではなかったことや、特定企業の営業活動を狙い撃ち的に妨害しようとしたのではなかったこと、また、景観保持が民意の裏づけを欠くものではなかったことを認定した。上原氏の弁護団が「事実上の全面勝訴」と評価する内容だった。
しかし、今回の二審判決はことごとく一審の判断を覆した。判決は当時の上原氏の施策や言動について、特に明和地所が市と相談を始めて間もない段階で住民にマンションの計画を伝えたことを取り上げ、「建築をやめさせようとしたが、有効な法的手段がなかったことから住民運動を利用した」と指摘。市議会や取材での発言などと合わせて社会的相当性を逸脱した違法行為だったとしたうえで、「明和地所の顧客がマンション購入に消極的になるなどの影響を与えた」ことが営業妨害や信用毀損に当たると判断した。さらに「景観利益保護という目的の公益性があったとしても、違法性を阻却するものではない」と断じた。
行政運営と首長個人の責任
実は、国立市から賠償金を受け取った明和地所は、「訴訟の目的は金銭ではなく、業務活動の正当性を明らかにするためだった」として、その後に同額を市に寄付している。上原氏側は「市に実質的な損害は生じていない」として賠償請求の棄却を求める理由のひとつに挙げ、一審判決も「賠償金の支出による損失が事実上解消されたと見ることは可能である」と述べていた。
しかし二審判決は、寄付の目的が「教育・福祉の施策の充実」とされていたことを引き、この寄付は賠償金の返還には当たらず一般的な寄付だとして、上原氏側の主張を退けた。