マルメの隣のルンド市では、1666年創立の名門ルンド大学が、産学共同で新規事業を支援しており、マルメにも先端技術の情報と人材が流れてくる。マルメの運営する起業支援の施設・サービスも充実している。学生がアイデアレベルで起業を相談できるところもあるし、最先端のベンチャー企業が格安でシェアオフィスを利用できる新築のきれいなビルもある。
そのうちのひとつに訪れてみると、欧州各地の人が参加している新規事業のワークショップをやっていた。そこでは、チームで考えた新しい事業が消費者のニーズをつかんでいるか、街に出てインタビューしていた。
こんな課題は、マルメだからできることだろう。さまざまな人種、文化の人が街中を歩いている。そのほぼすべての人が英語を話せる。そして、治安がよいので、見知らぬ外国人がインタビューしても事件に巻き込まれない。
教育と多様性
スウェーデンでは、移民にさまざまな教育の機会を与えている。学校教育は無料だし、学校に行く子供を持つ家庭には、政府から助成金が支払われる。その助成金の毎月の額に合わせて、音楽や運動などを教える民間事業者が豊富にある。
マルメ近郊在住の日本人の方も、スウェーデンに来てすぐSFI(移民のためのスウェーデン語プログラム)でスウェーデン語を、もちろん無料で勉強した。当時、クラスメイトにアフガニスタンからの難民が何人かいて、苦労話をよく聞いた。SFIを卒業して数年経ったころ電車に乗っていると、なんとそのアフガニスタン人が鉄道会社の制服を着て切符の点検に来た。「いい仕事に就けてよかったよ」と笑っていた。難民として来てゼロから始めて、ちゃんと教育を受け、仕事を得てスウェーデン人と同じように生きる道が開けるのだと感心したという。
マルメでは、中東系のタクシーの運転手が多く、英語でしきりに話しかけてくる。
「サッカー選手のイブラヒモビッチを知っていますか。彼は、マルメの俺たちと同じ地区の出身です。性格もいいんですよ」
英語もできるし、イギリスのEU脱退、トランプ米大統領などのちょっとした時事的な話題も語ってくれる。トランプ氏が愛するニューヨークのタクシー運転手よりも英語がうまいし、教養があるように感じる。