新型コロナウイルスの第3波ともいえる感染拡大が続くなか、感染症対策の中核を担うべき保健所の苦難は続いている。人手不足と保健所の設置数減少が重なり、働いている方々の過重労働も解消されていない。保健所職員の拡充の必要性は与野党とも認識しているが、その取り組みははかばかしくない。
いったい、なぜこのような事態に陥ったのか。歴史的に見てみよう。
保健所は、1947年に憲法25条の国民の生存権保障に基づき制定された保健所法で、国の責任で国民の公衆衛生の向上・増進を図ることを目的に「人口10万人に1カ所」の基準で設置されてきた。この保健所法は、保健所の無料利用の原則を規定するとともに、施設または設備に要する経費及び保健所の運営に要する経費の国の負担を明記していた。この状態が続いていれば、現在のような混乱は防げていたといえる。
しかし、81年の第二次臨時行政調査会の答申で保健医療に関して疾病の自己責任、国庫補助の引き下げ、民間活力の導入などが提言されたのを受けて、84年には保健所法を改正して、保健所運営費を従来の定率補助方式から定額補助方式に変更し、国庫負担の削減を進めた。85年には、「地方行革大綱」に基づいて保健所の統廃合、人員の削減、業務の民間委託が進められた。
1989年には総務庁の行政監察「保健衛生に関する行政監察結果に基づく勧告」が出され、そのなかで保健所業務の民間委託化、保健所の縮小及び廃止、業務の市町村への移管、監視・検査業務の特定保健所への集中化を打ち出したのである。
これを受けて始まったのが、「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律案」策定の検討作業であった。そして94年に政府は、保健所に対する財政支出を減らすことを主な目的に保健所法という名称を地域保健法に変え、保健所の削減・再編を進める「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律案」を国会に提出して成立させたのである。
この法律の下で保健所の削減・再編、国の保健所運営に関する経費負担の廃止と市町村への負担の転嫁、市町村保健センターへの権限委譲が進められた。96年に845あった保健所数は97年には706と、1年で139も削減されたのである。
「新しい時代の感染症対策について」
このような怒涛のような保健所削減の一方、97年12月に厚生労働省の公衆衛生審議会は、報告書「新しい時代の感染症対策について」をまとめ公表した。
「保健所は、地域における感染症対策の技術的専門組織として市町村への情報提供・指導に当たるべき役割を担うべきであることは言うまでもない。新しい時代の感染症対策においては、(略)地域における感染症対策の中核的機関としての位置づけを明確にすべきである」
「都道府県においては、中期的な課題として保健所に疫学(特に感染症の疫学)の専門家を配置する等の取り組みを進めることにより、実際に患者発生があった場合の必要に応じての積極的疫学調査を迅速かつ効果的・効率的に行えるように体制整備を進めていくことが期待される」
このような公衆衛生審議会の提案も保健所機能の強化には結び付かず、人員の削減、保健所の削減は続いたのである。
(文=小倉正行/フリーライター)