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作家の藤井青銅氏によれば、この辛酉改元は、三善清行がライバル関係にあった菅原道真への対抗上、持ち出した考えだともいわれる。清行は下級貴族の出身で、官吏の試験官を務めていた道真から試験に落とされた過去がある。そのときの恨みともいわれるし、右大臣にまで出世した道真を快く思わない政治勢力によって利用されたともいわれる(『元号って何だ?』)。学問の神様と呼ばれる道真はこの年、九州の太宰府に突然左遷され、まもなくその地で失意のうちに没する。
鎌倉時代以降、武士の時代になると、幕府も元号に対する影響力を強める。室町幕府の3代将軍、足利義満は「至徳」「明徳」などの元号を決めたとされる。戦国時代になり、室町幕府最後の15代将軍、足利義昭が「元亀」への改元を朝廷に申し出たところ、実力者の織田信長が待ったをかけた。義昭の意見で元号が決まれば、将軍の権威が復活してしまうと警戒したのだ。朝廷でも幕府でもなく、一戦国大名の意向で改元が左右される。武力を背景とする政治力のなせるわざだ。
徳川幕府を倒した明治政府は、天皇の在位中は元号を変えない「一世一元」とすることを決めた。この背景にも政治的な思惑があった。一世一元にすることで将来の改元についての駆け引きを封じ、まだ不安定な新政権を確たるものにしようと考えたのだ(藤井氏前掲書)。
一世一元の採用により、元号が政争の具になる可能性は小さくなったように見えた。しかし今回、冒頭で述べたように、元号そのものではないものの、事前公開の日程をめぐって政治の世界で暗闘が繰り広げられた。
もしこれが元号ではなく、西暦や、元号と並行して使われていた十干十二支による紀年法であれば、政治が介入する余地はない。政府に決定権はないからだ。しかし元号は、政府が決定するという性格上、政治利用の恐れから逃れられない。今や世界で日本しか使っていない元号を使い続けるのであれば、私たち国民はそのリスクを常に忘れず、警戒を怠らないことが必要だろう。
(文=木村貴/経済ジャーナリスト)
<参考文献>
鐘江宏之『律令国家と万葉びと』(全集 日本の歴史 第3巻)小学館
藤井青銅『元号って何だ? ~今日から話せる247回の改元舞台裏~』小学館新書
坂上康俊『平城京の時代』(シリーズ日本古代史 4)岩波新書
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