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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第54回

巨額の“不当利得”、高給を食み、堕落の一途をたどった巨大新聞社が、今は経営難に…

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巨額の“不当利得”、高給を食み、堕落の一途をたどった巨大新聞社が、今は経営難に…の画像1「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出された。

 深井宣光がジャーナリズム史の研究を進める過程で身につけた新聞の定価決定のメカニズムの推移について薀蓄(うんちく)を傾けていると、仲居が次の料理「炊き合わせ」を運んできた。これまで、仲居が部屋に入ると、太郎丸嘉一がリードして三人だけで交わしていた本筋の話題から離れ、料理や酒などの話にすり替えていた。しかし、三人とも酔いが回ったのか、仲居の存在など気にせず、吉須晃人が経済記者として深井の薀蓄を敷衍(ふえん)する発言を始めた。

談合すれば、その業界で一番弱い企業が生き残れる価格で決まるのが当たり前だよな。そうすると、収益力や体力のある大手にとってはこんな好都合なことはないんだな」

 吉須が話し始めても、太郎丸は「八寸(はっすん)」料理の残りに箸を運び、嘴(くちばし)を挟まなかった。

「もっと安い値段で売れるのに、高く売るんだから、儲け過ぎになる。当然、経営者の規律は弛緩するし、従業員も高給を食むようになり、堕落し始める。そうだよな、深井君」

「そうなんです。新聞業界では談合で一番得をするのは大都、国民、日亜の大手3社です。3社のため込んだ〝不当利得〟は膨大です」

 深井が補足すると、吉須が自嘲気味に笑った。

「まあ、その〝不当利得〟のお陰で、定年後も仕事をせずに嘱託で600万円の年俸をもらえるんだし、300万円の企業年金はもちろん、減額されているとはいえ、厚生年金100万円までもらえるんだからな」

「確かにそうなんですけど、うちと吉須さんの日亜はここ1、2年で、急速に部数が減っています。〝不当利得〟の蓄えも細っています。うちも日亜も密かに企業年金のカットを検討しているらしいですよ。この点、会長の国民は部数が増え続けているので、〝不当利得〟の蓄えが増えているんじゃないですか」

 料理を運んできた仲居が部屋を出て行っても、太郎丸は苦虫をかみつぶしたような顔つきで二人のやりとりを聞いていたが、深井が国民に言及すると、突然、テーブルを叩いた。

「お主、何を言うんじゃ! うちじゃって、〝不当利得〟なんてもうありゃせんぞ。値上げせにゃやっていけん状況になりつつあるんじゃ。そんなこともわからんのか!」

 太郎丸が激昂しても、うろたえるような二人ではない。今度は吉須が反論した。

「でも、国民の部数が増えているのは事実でしょう。最近じゃあ、国民の一人勝ち、と言われているじゃないですか」

「お主らはわかっちょらんぞ。わしのところの部数が増えちょるのはな、大都や日亜のように販売を軽視しちょらんからじゃ。編集部門も優秀な記者がちゃんと残っちょる。お主らのような優秀な記者がいなくなっちょる大都や日亜とは違うんじゃ」

 新聞社の死命を制するのは突き詰めれば紙面の中身だ。その経営トップも記者出身が当たり前だが、国民だけは太郎丸が5年前に後継社長に選んだ販売部門のエース・三杯守泰だ。〝販売の国民〟と言われる所以だった。

 激昂した太郎丸は手酌で冷めた熱燗を一杯飲み干すと、またまくしたてた。

BusinessJournal編集部

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