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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第54回

巨額の“不当利得”、高給を食み、堕落の一途をたどった巨大新聞社が、今は経営難に…

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「お主らの会社の論説や編集に名の知れた奴がおるか。外部から原稿の依頼のありよるような奴は一人もおらんじゃろ。わしの後任の主筆、真田(憲三=さなだけんぞう)は国際ジャーナリストとしてあちこちで引っ張りだこじゃわ。わしのところはな、販売・経営と編集の両方に人材がおって、うまく回っておるんじゃ」

 4半世紀前までは〝スター記者〟と呼ばれる人材が紙面で縦横無尽に活躍していた。太郎丸がその一人だったし、かつて日亜社長候補で、現社長の村尾(倫郎)の天敵だった源田真一(げんだしんいち=監査役)もそうだった。昭和39年入社の源田は国民主筆の真田の一年上だったが、15年前には「国民に真田、日亜に源田あり」と喧伝された。源田が政治部、真田が国際部、という土俵の違いがあったが、その書く記事は注目された。

 15年前といえば、部数トップの大都で、烏山(凱忠)が社長に就いた頃だ。当時、部数トップと業界一の高収益に胡坐をかいていた大都にはすでに気骨のあるジャーナリストなど居場所がなくなっていたが、烏山の社長就任で堕落がさらに加速した。源田のいた部数第3位の日亜は大都よりましだったが、源田が体調不良で身を退き、富島(鉄哉)が社長候補に躍り出ると、堕落の轍を走りはじめ、一気に大都に追いつき、追い越してしまった。

「今の新聞業界の実態は会長の言う通りですよ。だから、大都や日亜を救済しても意味がないでしょう。ジャーナリズムの役割を果たせるような新聞社に戻すことなど無理です。そんな救済策より、独禁法の特殊指定を止めて、自由競争する方がいいんじゃないですか」

 吉須が再びかみつくと、深井がそれを引き継いだ。

「僕にわからないのは、6年前、公取委が新聞の特殊指定を外そうとしたとき、報道協会長として反対キャンペーンをリードしたのは会長ですよ」

 特殊指定は公取委が特定の事業分野での不公正な取引方法を具体的に示して規制する制度だ。見直しをした6年前には「物流」、「大規模小売業」、「オープン懸賞」、「食品缶詰・瓶詰」、「海運」、「教科書」、「新聞」の7業種が指定されていた。

 「物流」、「大規模小売業」は2005年(平成17年)の指定だったが、残りの5業種は30年以上前に指定されており、公取委は見直すことにしたのだ。しかし、最も古い指定(昭和30年=1955年)の新聞業界だけがマスコミに媚を売りたい政治家たちを抱き込んで猛烈な反対運動を展開し、公取委に見直しの対象から外させたのだ。

 太郎丸は二人の反論に苛々を募らせ、手酌で酒をあおり、口を開かなかった。二人が黙って待っていると、また引き戸が開いた。仲居が食事の前の最後の料理、「酢の物」と酒を運んできた。仲居が部屋を出ると、太郎丸は落ち着きを取り戻した。

「この後は食事じゃ。まあ、もう一杯飲めや」

 太郎丸は吉須に新しい徳利を差し出した。吉須が杯で受けると、今度は深井に向けた。しかし、深井が手を上げ、やんわり断ると

「まあ、ええ。お主はビールを飲んじょればええじゃろ」

 と、無理強いはしなかった。

「申し訳ありません。新しい生ビールがありますので、こっちにさせてください」

 太郎丸と吉須が杯をあおるのに合わせて、深井も生ビールのグラスをぐいと飲んだ。そして、盃をテーブルに置いた太郎丸がようやく二人の疑問に答えた。

「独禁法の特殊指定の見直し反対をリードしよったのはわしじゃ。じゃが、6年前はな、特殊指定がなくなっちょっても、わしのところは本音じゃ、よかったんじゃ」

 意外な答えに吉須が身を乗り出した。

「それなら、なぜ反対運動の先頭に立ったんですか」

「それはじゃ、わしが報道協会長の職におったからじゃ。あの時点で、わしのところは新聞が再販を外れ、特殊指定でもなくなりよった方がよかったんじゃ。日亜を蹴落とし、今頃は大都を抜き、盤石な日本一の座についちょるわ。じゃがな、報道協会長の職におる以上、そんな自社に有利な行動などできよるわけないじゃろ。それがわしの矜持(きょうじ)じゃ」

「なるほど。会長の気持ちはよくわかりました。それなら、国に2000億円のカネを出させて新聞社の資本を増強する救済策を打ち出す時、特殊指定と再販はどうするんですか」

 吉須の質問は愚問だった。太郎丸は少しむっとした表情で語気を強めた。

「当然、対象外にしよるんじゃ。大体な、わしの救済策はうち(国民新聞)には不要じゃわ。わしのところのような例外を除き、資本不足で経営難に陥る恐れのありよる、多くの新聞社を助けよる言うんじゃわ」

BusinessJournal編集部

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