12月24日、安倍晋三政権は来年(2014年)度予算案を閣議決定した。毎年、決定当日の夜、財務省主計局では次官と主計局長が音頭をとりビールで乾杯するのが慣しだ。予算編成が本格化し出した7月以降、若手係員や係長は帰れない日々が続いていたのだから、予算規模が過去最大の約95.9兆円にまで膨らんだことなどはとりあえず忘れ、アルコールで喉を潤したくなるのは当然かもしれない。
来年度予算案の目玉のひとつは、社会保障費が予算全体の3割(約30兆円)を占める中、2年に一度の診療報酬改定がどうなるかという点だった。力は衰えたとはいえども、いまだ潤沢な資金力と集票力を持つ日本医師会(日医)の選挙協力をあてにして、11月には「国民医療を守る議員の会」が発足。会長には高村正彦自民党副総裁が就任し、最終的には約280人の議員が名前を連ねている。
田村憲久厚労相自ら指揮を執り、木倉敬之本局長を中心に唐沢剛社会保障担当統括官と神田裕二審議官が脇を固め、万全の体制で「プラス改訂への道筋」をつけるはずだった。だが、結局は「0.1%増」。それも消費税対応分を除くと、実質マイナス改訂という厚労省・日医サイドには厳しい結果となったが、日医関係者は「この程度で済んでよかった」と次のように打ち明ける。
「構図としては官邸+財務省vs.厚労族議員+厚労省・日医連合でした。しかし、田村厚労相も厚労官僚も、財務省を説得できる策を持たずに闘いに挑んでいった。消費増税で財源は確保されているとの先入観にとらわれて、すべての対応が後手に回っていた。それでも0.1%増という数字になったのは、横倉(義武)日医会長の政治力の賜物でしょう」
●周到な財務省
一方、厳しい攻防を予想していた財務省は、前回診療報酬改定でも主導的役割を担った福田淳一主計局次長と新川浩嗣主計局厚生労働第1係担当主計官を軸に万全の体制を整えていた。医療費の国庫負担は、次年度予算でも11兆2000億円が計上されているが、「医師の平均年収約3000万円」という試算が出ており、一部の多忙な勤務医を除けば多過ぎるとの批判も多い。それでなくとも社会保障分野は高齢化社会の中、毎年1兆円ずつ税金投入が伸びていく。高齢者数が増えれば患者数も増え、病院の財政も医師の給与も潤う。だから、診療行為の対価をカットしていけば、税金投入は減り、病院経営にも悪影響はないというのが財務省のロジックだった。厚労省サイドは、これを打ち砕くだけの説得材料を持たなかった。
焦った日医と厚労省は、12月に入ってから激しい巻き返しを狙う。自民党本部や議員会館には関係者が日々陳情に訪れ、それを受けて族議員らが次々と首相官邸に上訴しに行く。「やはり数の力は強く、最後は譲歩しなくてはいけないかと皆不安でした。麻生(太郎)財務相でなければ、押し切られていたかもしれない」と、前出の財務省幹部は打ち明ける。
官邸から安倍首相の盟友・衛藤晟一総理補佐官が財務省に乗り込んで来た時も、麻生財務相は多忙を理由に立ち話で済ませたという。「麻生さんが3分だけならいいと言って衛藤さんが話し始めたのですが、麻生さんは本当に『はい、3分』と切り上げてしまったそうです」(同)。最終的には、安倍首相の仲裁で、麻生財務相と同郷の横倉日医会長との間で落とし所が探られ、麻生財務相と田村厚労相との折衝で、「プラス0.1%」という数字が12月20日に決まった。