大震災の影響で合併はご破算?~社長の不倫スキャンダルの対応に追われる巨大新聞社
業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていたが、もう一人の首席研究員、吉須晃人とともに、新聞業界のドン太郎丸嘉一から呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。しかし、その計画を実行に移す直前に東日本大震災が起こった。震災から2カ月を経て、太郎丸が計画を実行に移した。
「…。ええ、雑誌が手に入った土曜日(5月28日)の夜から法務室の方で検討させています。現段階の弁護士の意見は、掲載された写真では不倫の証拠にならない、というものです。『深層キャッチ』が別の写真でもあるなら、別ですが、訴えれば相手は立証できません」
大都社長の松野弥介から質問を振られた秘書部長の杉本基弘は不意をつかれたものの、その中身がすでに対応策の固まっていた案件で、徐に面を上げ、自信ありげに答えた。
「もう勝ったようなものか。え、杉本君」
「そうです。こちらは何もする必要はないんですが、一応、社長室の花井(香也子)君がホテルに出入りした理由などの統一見解を法務室の連中と詰めようと思っています。早い方がいいので、昼までには固めたいので、ちょっと外してもよろしいでしょうか」
「それは早くやってくれ。しっかり頼むぞ」
「かしこまりました」
杉本は満足げな笑みを浮かべた松野に一礼すると、背を向けてドアに向かった。
×××
「おい。北川(常夫編集局長)君。向こうに移動しよう」
杉本が部屋を出ると、松野は席を立ち、来客用の応接セットに向かった。そして、いつも自分が座る一人用のソファに身を沈めた。
「この一件、君はどう思うかね。どうも日亜がくさいんじゃないか、と思うんだが…」
「え、この一件?」
「『深層キャッチ』の記事だよ」
「記事のネタ元のことですか? それが日亜サイドのリークじゃないか、と言うんですか」