腐敗する巨大新聞社の社長追放計画、次の狙いは二股不倫の一方からの激白?
吉須と深井はカウンターで生ビールのグラスを受け取ると、誰もいない、三、四人が立ち飲みできる奥の丸テーブルに行き、飲み始めた。
「会長、村尾の方は“二股不倫”を暴く自信がありそうでしたけど、本当に杉田さん、週刊誌に“激白”なんてしますかね。吉須さん、どう思います?」
「俺は二人のことを全く知らないんで、わからんけど、そりゃ、“激白”の可能性があるのは杉田玲子だろう。ジャナ研で会社が別だからな。由利菜の方は日亜の記者だから、今度のスクープで日亜に居づらくなって辞めるかもしれないけど、その時は村尾が因果を含めるだろう」
「でも、由利菜は辞めますかね」
「普通なら、辞めるだろう。でも、今まで“公然の秘密”みたいなところがあったし、村尾同様に厚顔無恥なんじゃないか。まだ辞めるなんて噂は聞こえてきていないな」
「大企業で、社長と社員が長年不倫を続けているなんて、前代未聞ですよね。まして、言論機関ですからね。記者たちの間で問題にするような声は巻き起こらないんですか」
「それもないね。うちは腐りきっているんだ。これまでも、何度も言っているけどな。いくら会長が歯ぎしりしてももう遅いんだ。それより、大都はどうなんだい?」
「うちも同じですよ。ただ、松野の不倫は社内であまり広まっていませんし、一応、表向きは『花井佳也子がホテルに出入りしたのは社長の松野に決裁書類を届けただけ』ということになっているんで、騒ぎにくい面もありますけどね」
「会長も言っていたけど、松野を追い込む方が問題かもな。村尾の方は女誑しだけに追い込みやすい。どこかで日亜の記者たちが目覚めれば、一気に退陣に持っていけるかもしれない。まあ、今や、ありえないことだけどな…」
「その意味で、『深層キャッチ』が直撃取材しなかったのが残念ですね」
「そりゃそうだが、もう後の祭りだろう」
「会長にもまだ次の手がみえないんでしょうね。これまで『次にどうする』と言い置きましたけど、今日は何も言わずに出て行ってしまいました」
「あの人のことだから、頼みたいことがあれば、君に連絡してくるさ。俺には絶対に言ってこないからね。俺は君から話があった時に協力するかどうか考える。それでいいだろ」
「じゃあ、会長が協力を求めてきたら、吉須さんはやってくれるんですか。さっきの話だと、わざわざ『今は』と言って、場合によっては『やらない』という感じもしたんですけど…」
「ふむ。…」
吉須は顎に手を当て、少し考えているような素振りを見せた。