日本でこのような直接行動による民主制がどこまで国民に広く受け入れられ、定着していくか今の段階ではわからない。代議制民主主義に代わって、国民の民意をより明確に反映する政治制度や仕組みが何なのか、まだ見えていない。ただ、フェイスブックやツイッタ-など新たなソ-シャルメディアの進化・普及によって、国民の政治意識や政治行動の表現が変わり、現実の政治を変えていくことは十分考えられる。
SNSと政治
それまで自分たちの意見を表明する有効な手段を持たなかった多くの国民は、ソ-シャルメディアを通じて自分たちの意見や要望をアピ-ルし、多くの人たちとつながり、行動を共にすることが容易にできるようになった。実際、反原発デモや集会の様子は、ユ-チュ-ブなどを通じてリアルタイム(ライブ)に伝えられている。プロの政治家や特定の政治組織の力を借りなくても、ふつうの市民個人や集団レベルで大衆動員をかけたり、政治行動ができるようになった。ソ-シャルメディアが直接民主主義の可能性をかなり広げたといえる。メディアの進化と連動したこうした市民の政治意識の変化や直接行動が現実の政治を変える力にどこまでなるかは、日本の政治を考える上で重要な指標になる。
野田首相や民主党政府はこの変化にまったく鈍感であり、その本質を理解していない。以前のように「ものを考えない、ものいわぬ国民」ではなく、「自分でものを考え行動する国民」へと変わってきている。野田首相は、官邸前デモに参加した人たちの再稼動反対の声に「大きな音だね」と、まるで他人事のように語ったと報道されている。その後、首相は「『音』とはどこで、どういうかたちで表現したかわからない」と参議院予算委員会で釈明しているが、再稼働そのものを「再考する気はまったくない」と言明している。
安全性の検証抜きで決定された再稼働
マスコミの「決められない政治」批判に反発してか、野田首相は「日本は原発なくしてやっていけない。原発を再稼働しなければ、日本経済は沈没する。だから再稼働を決断した」と自己流の“決める政治”を強調している。それは安全性の徹底検証を抜きにした再稼働の決断だ。
原発に対する同じ政治決断といっても、ドイツのメルケル首相と日本の野田首相を比較すると、その決定的な違いがよくわかる。
東ドイツ出身の彼女はもともと物理学者で、環境問題への強い関心もあり、CO2削減の立場から長らく原発推進派であった。その彼女が原発推進派から原発反対派に180度大きく舵を切ったのは、2011年3月11日東日本大震災・福島原発事故が発生した4日後のことであった。「フクシマ原発事故は、私の原発に対する考えや態度を大きく変えました」と彼女自身語っている。事故後すぐに7基の原発を止め、それでも国民の不安や恐怖が消えないと見るや、22年までにすべての原発を廃止することを言明し、国民に約束している。
ドイツの脱原発
ドイツには70年代から何十年にもわたる、環境NPO・グリ-ンピ-スや緑の党などを中心とした、反原発・脱原発を目指した広範な市民運動の長い歴史がある。その背景には、
「これまでのように石油・原発に依存したビジネス・経済を続けていては、早晩経済成長や国の発展に大きな限界が来る。その限界を突破するには、もはや石油・原発に頼らない新たなエネルギ-資源の確保や、新たなビジネスや経済のあり方をとことん模索するしかない」
という認識が同国内に広く共有されているためだ。