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浪川攻「金融業界のオモテとウラ」

今、証券会社のトップ営業マンが続々と転職している「ある職業」

文=浪川攻/金融ジャーナリスト

真の「顧客本位」を目指して

 たとえば、東京・有楽町のIFA法人ファイナンシャルスタンダード株式会社を経営する福田猛氏(38歳)は2012年に大手証券会社を退社、起業した。証券会社時代はトップセールスとして知られていた。なにしろ、社長賞の連続受賞などの実績をあげていたのだ。そして、入社10年目に退社した。なぜか。証券会社のあり方に根本的な疑問を感じたからだ。

「巨額のシステム経費に加えて、営業職以外の数多くの社員を雇用していることでの膨大な人件費を賄うために、非常に高額の営業目標が設定されている。それを達成するためのセールスは顧客本位からは程遠いものだと思った」

 優秀な営業社員だからこそ抱く現実に対する疑問といっていい。

 翻って、今の福田氏の状況は、まず契約先の証券会社のシステム活用によって、システムに関する開発費の償却、さらにはランニングコストからは解放され、社員のほとんどは顧客に投資アドバイスを行う者だけで構成されている。つまり、既存の対面証券会社が背負う膨大なコスト構造から解放されている。となれば、当然ながら膨大なコストを賄うために巨額の利益を稼ぐという過酷な収益プレッシャーもない。顧客に対して、じっくりと資産形成のアドバイスができる。

 福田氏と同じ有楽町に今年10月、オフィスを構えたのが株式会社Fanを経営するIFA、尾口紘一氏(35歳)である。やはり、大手証券会社でFA職の営業マンとして活躍していた人物であり、退社後、2008年に起業し翌年に金融商品仲介業の登録を果たした。

 富山市を主要地盤として活動してきた尾口氏が東京進出したのは、人口の多い東京マーケットで顧客基盤を拡大できると踏んだからなのか。おそらく、その期待はあるのだろうが、同氏は別の理由をこう語る。

「優秀な人材を採用するために、証券会社、銀行が多い東京に進出する必要があった」

 起業10年目にして、事業が拡大期を迎えつつあることを確信しているからこその発言である。証券ビジネスの地殻変動を実感していると言い換えてもいい。

 実際、前述の福田氏のオフィスには、大手の証券会社、銀行、あるいは外資系証券会社で営業職に就いている人たちの入社希望が後を絶たない。現在、福田氏を含めて15名の陣容だが、12月7日には1名の入社も決まっている。

「厳しいノルマの達成に明け暮れるなかで、みんな、これで大切な顧客のためになるのかと疑問と不安を抱いている」

 入社希望者と面接して、福田氏はこう実感している。

浪川攻/金融ジャーナリスト

浪川攻/金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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