ただ、多くの人が長生きする可能性は高いとはいえ、もしかして60代くらいでぽっくり亡くなるかもしれない。筆者は40歳のときに乳がんに罹患しているが、同年代のがん友のなかには、ぽつりぽつりと旅立つ方もいる。自分自身も平均寿命まで生きられるか微妙なところではないかと思ったりする。
そこで、50代後半でがんに罹患した方が、65歳からの公的年金を繰り上げて受け取ったほうが良いのか相談されるケースも多い。たとえ年金額が少なくなったとしても、受給前に、がんが再発・転移して亡くなってしまえば、元も子もないというわけだ。
自分の余命を強く意識したことのあるがん患者ですら悩むくらいなのだから、健康な人であれば、何歳まで生きるかなんて想像もつかないだろう。
長生きリスクに備える「トンチン年金」とは?
基本的に、マネープランを立てる場合、「何のために(目的)」「いつまでに(期間)」「いくら(金額)」の3つを明確にすることが必須となる。だが、自分の余命がわからなければ、いくら貯めれば良いか正確に試算できない。
すでに老後生活に入った高齢者も、お迎えがくる前に虎の子の預貯金が底をついてしまうのが怖くて、どれくらい取り崩して良いかわからない。もちろん、公的年金は亡くなるまで受け取れるが、それだけでは生活に十分とはいえないからだ。
最近、そんな長生きリスクを解消する保険が相次いで登場。注目を集めている。それが、いわゆる「トンチン年金」という商品で、「長寿年金」とも呼ばれる。加入者が死亡した場合の持ち分を遺族に返さず、生存している人の年金に回すしくみで、考案者であるトンティ氏というイタリアの銀行家に由来する保険制度を指す。なんと300年以上前に考え出されたものらしい。
現在「トンチン年金」を販売しているのは4社
16年4月に日本生命が業界初のトンチン年金として「グランエイジ」を発売したのを皮切りに、17年3月に第一生命が保険料の短期払いを導入した「ながいき物語」を発売。同年10月に太陽生命が要介護2以上で終身年金が受け取れる終身生活介護年金保険とセットにできる「100歳時代年金」を、かんぽ生命が保証期間を20年と長くして元本割れリスクを抑えた「長寿のしあわせ」を発売するなど、新商品ラッシュが相次いでいる。
現時点で、終身リスクを嫌がる傾向のある外資系の参入はなく、伝統的な個人年金を取り扱ってきた国内生保ばかり。ノウハウがあり商品化しやすかったのかとも推測される。
いずれの商品も、加入可能年齢は50歳から。保険料払込期間中の死亡払戻金や解約払戻金を払込保険料の7割程度に抑えて年金原資を増やし、一定年齢に達したら契約時に決められた年金額が受け取れるというのが共通点だ。
トンチン年金は欧米でも販売されているが、日本では「掛け捨てはソン」という意識が根強い。早く亡くなった人の持ち分を生存者に回すといっても、各社とも年金受け取り開始年齢から一定の保証期間を設けており、その間に死亡した場合は保証期間満了までの年金総額のうち未払い分を遺族に支払うかたちにして、極端な掛け捨てとはならない商品性になっている。
それでは、次回は後編としてトンチン年金のメリット・デメリットについてご紹介しよう。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)