今さらいうまでもありませんが、わが国は世界に冠たる地震大国です。平成に入ってからだけでも、1995年(平成7年)の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2004年(平成16年)の新潟県中越地震、11年(平成23年)の東北地方太平洋沖地震(東日本大震)、そして16年(平成28年)の熊本地震などでたくさんの尊い命が奪われ、財産が失われました。
今後も各地で大規模地震がやってくる確率が高いといわれていますが、地震に強いエリア、住まい選び、そして地震保険への加入などの備えは十分でしょうか。熱しやすく冷めやすいといわれる日本人、その点への不安は小さくありません。
南海トラフや首都直下型地震のリスク
わが国は、図表1にあるようにユーラシアプレートとフィリピン海プレートとの収束境界上にあり、その沈み込み帯である南海トラフでは、過去100年~150年程度の間隔で巨大地震が繰り返されています。政府の地震調査研究推進本部によると、2011年1月1日現在で、今後30年以内のこの南海トラフによるマグニチュード8.4前後の巨大地震発生の確率は60%程度としています。さらに、隣接するエリアの東海地震は同様に87%程度、東南海地震は70%程度だそうです。
加えて、東京都周辺の首都圏に最大級の被害をもたらす可能性のあるマグニチュード7クラスの地震が発生する首都直下型地震の確率も70%程度とされています。南海トラフなどのマグニチュード8台に比べると地震の規模は小さくても、人口密集地で政治・経済の中心だけに甚大な被害が想定されています。首都圏1都3県で死者2.3万人、建物61万棟が全壊や焼失し、経済的な被害は95兆円に達すると予想されているのです。
北海道でも超巨大地震発生の確率が高まる
しかも、昨年12月には従来はさほど指摘されてこなかった北海道の千島海溝沿いでも、巨大地震発生の確率が極めて高いと発表されました。北海道東部の十勝沖から択捉島沖の太平洋に横たわる千島海溝で、今後30年以内にマグニチュード9クラスの超巨大地震が発生する確率が7%から40%に達するというのです。マグニチュード9といえば、11年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震)に匹敵する超巨大地震です。
それも、このエリアでは平均340年から380年間隔で巨大地震が繰り返されているにもかかわらず、前回の巨大地震発生からすでに400年が経過しているところから、地震調査研究推進本部では、「巨大地震発生の確率が切迫している可能性がある」とすらしています。
わが国は、北は北海道の北方領土から南は九州・沖縄までまさに地震の巣であり、それに対する十分な備えが欠かせないことを、改めて実感させる発表といっていいでしょう。
しかし、住まいという面からのその大規模地震に対する備えは決して十分とはいえないのが現実ではないでしょうか。大規模地震の直後には備えが必要という意識が強まっても、一定の年月が経過すれば、忘れてしまうのが現実のようです。
東日本大震災の教訓も数年で忘却?
日本人がいかに熱しやすく冷めやすい人種なのか、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)後の住宅選びの変化をみると明らかです。
図表2をご覧ください。これは、住宅ローンを利用してマイホームを取得したいと考えている人が、住宅選びにおいて重視する項目を聞いたものです。大震災が発生する以前の11年度の調査では、重視する項目としては「価格・費用」がトップだったのですが、大震災後には「耐震性能」がそれに並ぶようになり、14年度の調査では、「耐震性能」が58.7%、「価格・費用」が56.4%と「耐震性能」がトップに立ちました。生命・財産を守るためには、多少高くなっても、「耐震性能」の高い住まいを手に入れたいと考える人が増加したわけです。
しかし、それも長続きはしません。15年度には「耐震性能」を重視する割合は26.8%まで低下し、「予算・費用」の70.5%はおろか、「間取り」の31.8%にも追い抜かれてしまいます。その後、「耐震性能」の重視率は20%台の後半にとどまっています。まったく無視するわけではないものの、それよりは予算や費用に見合った間取りや広さを確保できる物件選びを優先する人たちが多数派になっています。
あの甚大な被害が出た東日本大震災の記憶も数年のうちに忘却されてしまったのでしょうか。
地震保険付帯率も全国平均で62.1%にとどまる
これは、地震保険の付帯率の動向にもあてはまります。地震保険というのは、単独で加入することはできず、火災保険の特約として付帯するかたちで加入します。その地震保険の付帯率は、16年度の全国平均で62.1%です。火災保険に加入している人のうちの6割強の加入にとどまっています。火災保険に入っていない世帯を含めた全世帯の加入率となれば、3割程度にとどまっているのが現実です。
しかも、図表3にあるように、地震保険付帯率の推移をみると、日本人の熱しやすく、冷めやすい気質が浮き彫りになります。全国平均で最も付帯率が高いのは宮城県の86.4%です。もともと地震の多いエリアですが、東日本大震災のあった11年度には付帯率が68.7%から81.1%へ12.4ポイントも上昇しています。しかし、その後はほぼ横ばいで推移、なかなか100%まで達しません。
同じようなことは熊本県にもあてはまります。熊本地震のあった16年度には前年度の63.8%から74.3%に高まりました。でも、17年度以降はやはり停滞するのではないでしょうか。熊本県の近くの長崎県は全国で一番付帯率が低いのですが、それでも熊本地震のあった16年度には39.2%から45.0%に上がったものの、まだ50%に達しない低い水準です。
中古住宅なら建築年次をキチンと確認する
では、「耐震性」を重視するという観点からは、実際の物件選びにおいて、どんな点に注意すればいいのでしょうか。
一戸建て、マンションにかかわらず何より大切なのは、安全な場所選びです。いくら地震に強い建物を選んでも、地震後の火災や津波に襲われては元も子もありません。海岸に近いエリアなら、高台の津波の恐れのないエリア、火災に巻かれにくい住宅密集地ではないエリアで取得するのが安心です。
と同時に建築年次も重要なチェックポイント。現在の耐震基準は1981年(昭和56年)に施行されました。中古住宅でも、それ以降に建築基準法を遵守して建てられた住宅ならほぼ安全ですが、それ以前の住宅については、耐震リフォームが行われているかどうかなど、耐震診断が必要になります。
マンションは免震構造や直接基礎を選ぶ
その上で、マンションなら強固な地盤の上に建てられた物件を選びたいところです。固い地盤である支持層が地盤面の近くまで届いている場所なら、より安心感が高まります。数m掘り下げれば固い地盤の支持層が出てくるので、そこに鉄筋コンクリート造の基礎を施工して、その上に建物を建設できるのです。いわゆる「直接基礎」です。
しかし、支持層が地下数十mにあるエリアでは、そこまで基礎杭を打ち込み、その上に基礎を施工する必要があります。これを「直接基礎」に対して「杭基礎」といいます。「杭基礎」の場合、基礎杭を何十本も打つ必要があり、施工不良などがあっても素人にはなかなかチェックできません。それに、巨大地震が起こったときには、建物が倒壊することはなくても、基礎杭が折れて、次に地震がやってきたときには耐えられないのではないかという専門家もいます。
何より、地盤が強固な場所にあって、基礎杭の施工が必要ない「直接基礎」の物件が安心ですが、エリアによってはどうしても「直接基礎」の物件を見つけにくいケースがあるかもしれません。
そんなときには、次善の策として免震構造のマンションを選択するのが安心です。免震構造というのは、地盤と建物の間に積層ゴムなどでできた免震装置を入れて、地盤の揺れが建物に直接伝わらないようにしたもので、建物の揺れを半分以下に削減できるといわれています。
最近は超高層マンションを中心に、この免震構造を採用したマンションが増えつつあります。多少コストアップ要因にはなりますが、それも生命・財産を守るためには仕方がないのではないでしょうか。
一戸建ては火災のリスクの少ないエリアで耐震等級3
一戸建てについては、何より火災に巻き込まれないエリア選びが大切。住宅密集地では、大地震後には大規模火災が発生する確率がたいへん高くなります。住宅間の距離があって、万一のときには消防車や救急車両などが入ってこられる道路幅が確保されていないと、自分の家は揺れに耐えても、その後の火災に遭遇するリスクが高くなります。
建物については、住宅性能表示制度を利用して、最も耐震性の高い耐震等級3を取得できる住まいを選びましょう。大手住宅メーカーが中心の住宅生産団体連合会の調査によると、大手住宅メーカーで建てた住まいの9割以上は耐震等級3を確保しています。たとえば、三井ホームは、「震度7に60回耐えた家」という謳い文句で耐震性能の高さをアピールしています。大手住宅メーカーの建築費は中堅以下に比べると高くなるものの、安全性などを考えれば、それもある程度は仕方のないことかもしれません。
でも、最近は中堅以下のメーカーでも、耐震等級3を取得できるケースが増えています。事前に住宅性能評価の可否、そして耐震等級3の取得の可能性などをキチンと確認した上で決めるようにするのが安心です。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)