金融引締めは、いずれやってくる
しかし、これが一気に可視化できる未来が待っている。それは金利の上昇である。
日本は今、長期金利が0%である。これ以下には下がらない水準だ。アパートローンの金利は長期金利に連動している。多くの個人投資家は、金利がもっとも安い変動金利で融資を引き出して投資物件を購入している。スルガ銀行など、融資基準の甘い銀行から融資を引き出して購入したのはアパートやマンション、小規模なビルや店舗だ。
個人投資家は、CF(キャッシュフロー)を基準に不動産投資を行っている。毎月入ってくる家賃収入から、銀行への利払いと融資返済を差し引いたのがCFだ。このCFは物件価格の2%から3%ないと危険。なぜなら投資物件がいつも満室とは限らない。また、地震や台風、あるいは老朽化によって都市物件に補修の必要が生じることもある。そういう費用は常にオーナー負担なのだ。
ところが、融資を受けている金利が仮に1%でも上がったら、このCFの前提は大きく狂う。2%も上昇すれば、この4年以内に購入した物件は、ほとんどがCFで赤字になってしまう可能性がある。なぜなら、毎月の返済額が跳ね上がるからである。多分、パニックに近い状態になるはずだ。
しかし、日本の金利が短期間に2%も上昇することは考えにくい。あのドラスティックに金融政策のかじを切るアメリカでさえ、2017年には0.75%しか金利を上げられなかった。今年も同じペースのように見える。
ただ、世界の趨勢は金融引締めに傾いている。来るべき不況に備えて選択肢を増やしておきたい、という心理が働いている。金利を高めに保っておけば、不況がやってきたときに金利を引き下げる金融緩和という選択肢を使えるからだ。
ところが日本は、金融引締めという世界の流れから取り残されている。黒田東彦日本銀行総裁は、自らが掲げた「物価上昇目標2%」という公約が実現できていないので、金融引締めを渋っているのだ。しかし、日本もいずれ金融引締めに転じざるを得ないだろう。そうなれば3年程度で2%の金利上昇もあり得る。
過剰な不動産担保融資のツケ
スルガ銀行やそこに追随する地方銀行、信用金庫がここ4年ほどで行った過剰な不動産担保融資はいずれ不良債権化する。それを導く確実な事象は金利の上昇。しかし、そのほかにも住宅の余剰という問題もある。
個人の不動産投資は、購入した物件をある程度の割合で賃貸できる、というのが前提だ。通常、8割の入居率でプランを立てる。しかし、そもそも賃貸住宅全体の空家率は15%以上という統計数字がある。これは平均値。人気のある物件は入居率が100%に近く、不人気な物件は50%も珍しくない、というのが実態だ。
かぼちゃの馬車も、運営企業が公表していた入居率はほとんどが虚偽だった。郊外や、都心でも駅から遠い賃貸住宅の入居率は低い。安いからといって入居率の低い物件を購入した個人投資家は、その経営に苦しむことになる。
2015年以降、相続税対策で所有地にアパートを建てた資産家も多い。レオパレスや大東建託といった企業は、今でも地主たちに賃貸アパートの建設・経営を勧める猛烈な営業を展開している。賃貸住宅を経営する環境は日々厳しくなっているといわざるを得ない。
今後は、スルガ銀行ではないほかの金融機関でも、同様の問題が噴出してくる可能性がある。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)