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荻原博子「家庭のお金のホントとウソ」

来年の消費増税、見送りの可能性(3)…低所得者対策カットでも軽減税率の財源不足

文=荻原博子/経済ジャーナリスト

富裕層ほどトクする軽減税率、いまだ財源不足

 今回の消費税増税に賛成しているのは、上は経団連から下は街場の蕎麦屋さんまで、皆無といってもいいでしょう。さらに、当事者の財務官僚のなかにも不安を口にする人がいます。それは、財源の問題があるからです。

 軽減税率を導入するにあたっては、1兆円の財源が必要といわれています。しかし、現時点では確保できていない状況です。財務省は、たばこ税の増税で約2500億円、所得税増税で約800億円、「総合合算制度」の見送りで約4000億円を確保できる見通しですが、依然として約3000億円弱が不足している状況です。

 ちなみに、「総合合算制度」とは、低所得者へのセーフティーネットを強化する目的で、医療や介護、保育、障害者対策などを家計全体で合計し、一定額を超えたら超えたぶんに給付をしようというものです。病気をかかえながら介護を行っている老老介護の世帯や、子育てと介護の両方をしなくてはならない子育て・ダブルケア世帯、急病で働けなくなった単身世帯に手を差し伸べようという制度でした。この低所得者対策に使うはずだったお金を軽減税率に回そうというのですから、ひどい話です。

 しかも、軽減税率というのは低所得者よりもお金持ちに有利な制度です。たとえば、100グラム100円の豚肉を買う人の消費税は軽減税率で8%なら2円安くなるだけですが、100グラム1万円の高級牛肉を買う人は100倍の200円も消費税が軽減されます。同じ100グラムの肉の購入でもこれだけの差があるわけで、つまり軽減税率でトクをするのはお金持ちだということです。

 こうした消費税増税の落とし穴が徐々に明らかになってくると、税率アップへの怨嗟の声は、ますます広がっていくことでしょう。菅義偉官房長官は、「リーマン・ショック級の経済危機が起こらない限り増税を実施する」と言っていますが、小売業者や給料が伸びない会社員にとっては、消費税増税こそがリーマン・ショック級の経済危機として認識され始めています。

 さらに、政府にとっても、自民党総裁選挙、沖縄県知事選挙と苦い選挙を経験するなかで、ここで消費税を引き上げれば来年の2つの大事な選挙に勝てない可能性も出てくるわけですから、安倍政権にとってもリーマン・ショック級の危機になるでしょう。

 そうなれば、選択肢は「消費税増税先送り」のカードしかない。そして、そのカードをより効果のあるかたちで切るために、今は消費税増税の恐怖を煽り、できるだけ混乱させ、来年の統一地方選挙の前のタイミングでサプライズを発表する。今は、その時期を見計らっているのではないでしょうか。

 以上は、私の個人的な推測ですが、みなさんはどのように考えるでしょうか。
(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)

荻原博子/経済ジャーナリスト

荻原博子/経済ジャーナリスト

大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説して活躍中。著書多数。

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