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SMBC日興証券相場操縦疑惑はどこが問題なのか? 元社員がその「落とし穴」を解説

中沢隆太
SMBC日興証券HP
SMBC日興証券HP

 2021年11月2日、SMBC日興証券は、同社社員が株価操縦疑惑により証券取引等監視委員会の調査を受けたと発表し、大きなニュースとなった。

 これを受け、近藤雄一郎社長は2022年1月4日、日本証券業協会が主催した年頭のオンライン会見で「証券取引等監視委員会の調査は継続中であり、しっかりと社内調査を行い、信頼回復に努めたい」と述べている。

 現時点において詳細は明らかになっていないが、「ブロックオファー」という取引が調査対象とされている。一部では、本件は証券取引等監視委員会のメイントピックとも言われており、今後さらに大きなニュースとして登場する可能性が高い。元SMBC日興証券の社員として、本件の問題点や、概要をわかりやすく解説していきたい。

ブロックオファーとは「非公表の大口の売出し」


 ブロックオファーとは「世間一般に公表されない、株式の大口の売出し」をいい、各証券会社において日常的に行われる合法的な取引である。具体的にいえば、上場企業の大株主等が保有株式を売却しようとした場合、その売却注文を一度に市場へ流すと株価が大きく値崩れを起こしてしまう。また、日にちをおいて売却したとしても、相応の買い注文がなければ株価を切り下げながら売却しなければならない。

 そうした事態に対処すべく、証券会社が大株主の売却予定の株式を引き取り、時間外の相対取引を通じて特定の投資家(今回であれば日興証券に口座のある顧客)に転売する間を取り持つ。この一連の取引をブロックオファーと呼ぶのだ。

 基本的には、証券会社の買取額と投資家への売却額は、大株主が設定した日の終値を基準に算定される。大株主はブロックオファー取引により、株価への影響を最小限に抑えられる利点を用いて、当日終値から手数料を差し引いた額を現金化することができること、一般投資家は買付手数料がかからず、当日終値から0.5%程度のディスカウント価格で当該銘柄を買付できることがメリットとなる。その二者を繋げることによる手数料が、証券会社の儲けである。

 私は2021年3月に日興証券を退職したため、現在とは多少システムが異なっている可能性はあるが、元社員として内側からの視点でもお話ししていきたい。

 当時、ブロックオファーは月に2~3銘柄ほどあり、当日の15時半ごろになると銘柄、金額、ディスカウント率(基本的には0.5%)等の詳細な情報が全国の営業店にメールで一斉にローンチされ、そこから営業マンにより、担当顧客へ買付の提案が行われていた。金額の大小にかかわらず、当日中に与えられた株数を約定しなければならないため、支店中がお客様への勧誘の電話であふれていた。

 突然、当日にブロックオファーの実施を伝えられても、何十億もの株式をさばくことができない可能性があるため、社内のパソコンにはブロックオファーカレンダーがあり、銘柄は伏せられた状態で日時と予定金額が記載されていた。それにより営業マンは事前準備が可能になり、100億以上のブロックオファーであっても当日中に買い手をつけることができていた(本社も本店を含む営業店も、銘柄名は当日のメールにより初めて知る)。

 この株式を買付した顧客は翌日から売却が可能であり、翌日上昇した場合はもちろんのこと、終値と同値での寄り付きであってもディスカウント分が利益となる。そのため、営業マンは翌日の寄り付きで利益が確保できる水準になっていれば、顧客に早期の売却提案をすることが多くなる。結果、ブロックオファー銘柄は翌日以降、こうした顧客の買付金額分が売り圧力に晒されることが多い。ブロックオファーによる買付は公募増資と異なり、世間一般には公表されていないため、ある日突然、寄り付きに売り圧力が強くなった銘柄は、前日にどこかの大手証券によるブロックオファーがあった可能性も考えられる。

 私が在籍していた際の日興証券によるブロックオファー銘柄は成績が良く、買付した顧客が儲かったことのほうが多かった印象が強い。一部の記事では、ブロックオファーという取引が問題視され、悪く書かれているものもあるが、大株主、証券会社、一般投資家のそれぞれにメリットがある点では、決して悪いものではないと考える。

今回の問題点「売却する大株主側の利益のみを保護する行為」


 現段階では、詳細について明らかになっていないため、あくまで推測という形になるが、今回の問題について考察していきたい。

 まず先述の通り、売買価格は大株主が設定した日の終値を基準に算定される。この金額が、大株主が取引を持ち掛けた時点の株価に比べて大幅に下落していた場合、大株主が売却することに難色を示し、売買が成立しなくなる可能性が生じてしまう。そうしたことでの破談を回避するため、証券会社社員らは売却時点の株価を維持すべく、買い支える注文を繰り返していたのではないかという疑いが生じているわけだ。

 また、ニュース等では株価の買い支えは株価操縦で問題だという雰囲気になっているが、内容を深掘りしてみると、本件は相場操縦ではなく、安定操作取引違反に該当するのではないかと思われる。

 相場操縦とは取引を誘引する目的で、「有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、(略)相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすること」(金融商品取引法第159条第2項より)。

 安定操作取引とは、金融商品取引法(第159条第3項)上、有価証券の「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」する一連の有価証券売買等とされており、法令を遵守し申告されたものを除き、相場操縦行為の一類型として禁止されている。

 本件はどちらかというと大株主との取引が消滅してしまうことを防ぐために、「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」売却時点の株価を意図的に維持しようと、市場での取引を繰り返し、株価の買い支えを図ったものとなるのではないだろうか。

 この安定操作取引は、株価操縦であり市場の公平性を大きく歪めるため、許されるものではないという論調を多く目にするが、実はPO(公募増資等)やIPO(新規上場株)においては、主幹事証券等が買い支えることがあることも周知の事実である。

 私は、法律に詳しいわけではないため、法解釈についてはさまざまな議論がありそれらも確認してほしい。ただ、一般論として、株式の募集・売り出しを行うにあたり、株価の急激な変動を回避することや、募集行為を円滑に行うために安定操作取引が必要である場合、そしてそこに合理性が認められ、かつ届出・報告等の所定の手続によって行われる場合には適法とされていると考えるべきだろう。

 これはあくまでも個人的な考えであるが、POやIPOを株価の急激な変動をから守るための安定操作は多くの一般投資家にとってメリットのあることであり、SESC(証券取引等監視委員会)も強く規制に走らない。だが、ブロックオファーでの取引を安定操作することは、売却予定の大株主のみ保護するものであり、多くの一般投資家にとって不利になる可能性があることから、今回当局のメスが入ったのではないかと考えられる。

 今後、事件の全貌解明や関与した社員や会社がどのような処分を受けるのかについては、まだまだ時間を要するのではないかと思われるが、新たな用語や事実が出てくることも予想される。その際には、あらためてわかりやすく解説していきたい。(文=中沢隆太)

中沢隆太

中沢隆太

投資家のための情報プラットフォーム「ネコパートナーズ」専属アナリスト。SMBC日興証券リテール部門同期600人のトップを独走ののち、現職。

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