ご承知のように、オマーン戦で香川は「ラストパス」「アシスト」「起点」というかたちで、全3得点に絡んでいる。監督はじめ周りがみんな褒めているのだから、胸を張ってよいのだが、彼は違う。
「ぼくの本職はそんなことでなく、点を取ること。こんな大事なゲームで1点も取れなかったことが悔しい」
「位置取りが悪い。もっとペナルティエリアに入り込まなければならない」
「積極性が足りない。もっとみんなからボールを呼び込まなければならない」
しかし、香川が今回の得点チャンスで「ラストパス」「アシスト」「起点」ではなく、「オレが、オレが」と自分がシュートすることにこだわっていたら、3得点はなかったのかもしれない。だから、香川が抱く後悔は、「あの場合はあれでよかったとしても、あと1点、2点を自分の位置取りや呼び込みで、取るべきだった」と解釈するのが一番無難だ。
しかし、これだけ後悔する香川の心理は、そうではなく、日頃の彼の口ぶりから推測するに以下のようなものではないかと思う。
「点取り屋は『エゴイスト』でなければならない。味方にアシストするほうが安全だが、リスクを取ってでも自分がシュートを打つ。それで嫌われてもかまわない、というくらいエゴイスティックでなければ、たくさんの点など取れるものではない。オマーン戦の3点が2点に減ってでも、自分が2点入れれば4点になった。そうでなければ、僕が僕でなくなる」
自己主張と協調のジレンマをどう解消するか?
もし、香川が点取りに徹すれば、敵の守備も香川にもっと群がることになる。香川はそんな局面でもドリブルやシュートができる。一方で、香川が敵を引き付けた分、ほかのところにスペースができる。味方選手は、そのスペースを活用してシュートを打てばよいのだ。
これをビジネスに置き換えて考えてみよう。日本のビジネスでは、協調が強調されすぎる。だから突っ張ったアイデアが出ず、アメリカのように革命的な新製品や事業分野が出てこない。もっと香川のように「位置取り」や「呼び込み」をして、「ホンネで意見を言い合う」べきだ。そのようにして個性と創造性を発揮すべきである。そのほうが周りのチャンスも増えるし、全体の成果が上がる。
香川のように、「協調は自己主張のためにある」というくらいに考えなければ、日本のビジネスマンと企業に明日はない。彼が世界に雄飛するのは、優しさとともに持つ、強烈な個性なのだ。
ヨルダン戦、監督の采配からどれだけはみ出るか?
さあ、8日(金)のヨルダン戦――長友・香川・本田の左トライアングルが、ヨルダンに研究され尽くしていることが予想されるが、どうするか? いずれにせよ、彼らのフォーメーションを3角形で見ることから始めたい。しかし、それでも本田が右サイドに開いたままであった時が多かったように、香川がどのようにペナルティエリアに入り込んで粘るかが興味の焦点だろう。