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白井美由里「消費者行動のインサイト」

無意識のうちにカロリー摂取量が多い人に「共通の」生活習慣

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

ダイエット中の人は食品の刺激に気をつける

 ダイエットなど食事を制限している人は、食品の刺激に弱いことがわかっています。「匂い」はその代表です。フェドロフは女性を対象とした実験から、ダイエット中の人は、先にピザの匂いを嗅ぐと、嗅がなかった場合よりもピザをより多く食べることが明らかにされています。ダイエットをしていない人は、消費量に匂いの影響を受けませんでした【註6】。

 なぜ、ダイエット中の人は食品の刺激に影響されやすいのでしょうか。ストロエベらはその原因を探る研究を、女性を対象として行っています【註7】。それによると、ダイエット中の人にとって、好きな食品を思いっきり食べることはとても望ましい状態なのですが、一方でウェイトコントロールという目標があるため、その考えを極力抑えます。このような状態で好ましい食品に接すると、「食べることを楽しむ」という目標が意識に上り、ウェイトコントロールという目標との間で葛藤が起きます。そして、好ましい食品の刺激に何度も接すると、食べる楽しみのほうが中心的になり、ウェイトコントロールよりも勝ってしまうのです。

 食品のCMもまた、影響を与える刺激であることが報告されています。ファルシグリアは、若い女性を対象として、食品のCMを見ながらクッキーを食べる実験を行いました。この実験は、ダイエット中かどうかではなく、肥満かどうかで比較したものです。分析の結果、クッキーの消費量は、通常の体重の人よりも肥満の人のほうが多くなったことが報告されています【註8】。テレビCMは、食品を美味しそうに見せる工夫がなされているので、消費意欲に影響を与えやすいことは容易に予想できます。

 最近の研究からは、テレビ番組も影響を与えることが報告されています。シミズとワンシンクは、「スポンジ・ボブ(SpongeBob SquarePants)」というアメリカの人気アニメ番組で、男女の被験者にチョコレートに関するストーリーとクラゲに関するストーリーのいずれかを見せながら、高カロリーのスナックを食べてもらうという実験を行いました【註9】。その結果、スナックの消費量は、ダイエット中の人が食品関連のストーリーを見たときに最も多くなりました。この結果は、被験者の肥満度に関係なく見られたことも報告されています。ダイエット中の人は、高カロリー食品を食べながら食べ物に関する番組を見ると、食べ過ぎにつながるので、避けたほうがいいということになります。

 以上見てきた研究からは、少なくとも、空腹の時は買い物しない、家の中を整理整頓する、選択するパッケージサイズを小さくする、小さい食器で食べる、そして食品に関連する番組を見ているときは高カロリー食品を食べないようにすることで、高カロリー食品の摂取を減らせることが示されています。これらは自分でコントロールできるものなので、日々の消費行動の中で意識されてみてはいかがでしょうか。

 ところで、高カロリー食品をあまり食べないよう気をつけている人は、高カロリー食品を小パッケージで食べていても、少量だからといって安心しないほうがいいようです。大袋(200g)2パック、あるいは小袋(45g)9パックのポテトチップスをボウルに入れ、男女の被験者にテレビを30分間見ている間に自由に食べてもらった実験があります【註10】。先に自分の体型への満足度を評価してもらうことで自己規制の必要性を意識させた被験者の場合、大袋のポテトチップスを提供された場合には、袋を開けた人は26%と、小袋の59%よりも少なくなったのですが、開けた人が食べた量は平均24gと、小袋の平均46gよりも少なくなったことが示されたのです。自己規制をしている人は、大袋から食べる場合にはあまり食べないよう注意を払うので消費量を抑えられますが、小袋は「消費量を抑える手段」としてとらえて消費量にそれほど注意を払わなくなるため、より多く食べてしまうのです。パッケージが小さくても全部食べない、2つ目には手を出さないなどの意識はした方がいいようです。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

参考文献
【註1】Tal, A. and B. Wansink (2013), “Fattening Fasting: Hungry Grocery Shoppers Buy More Calories, Not More Food,” JAMA Intern Med, 173 (12), pp. 1146-1148.
【註2】Vartanian, L. R., K. M. Kernan, and B. Wansink (2016), “Clutter, Chaos, and Overconsumption: The Role of Mind-Set in Stressful and Chaotic Food Environment,” Environment and Behavior, 49 (2), pp. 215-223.
【註3】Wansink, B. (1996), “Can Package Size Accelerate Usage Volume?” Journal of Marketing, 60 (July), pp. 1-14.
【註4】Wansink, B., K. van Ittersum, J. E. Painter (2006), “Ice Cream Illusions Bowls, Spoons, and Self-Served Portion Sizes,” American Journal of Preventive Medicine, 31 (3), pp. 240-243.
【註5】Wansink, B. and J. Kim (2005), “Bad Popcorn in Big Buckets: Portion Size Can Influence Intake as Much as Taste,” Journal of Nutrition Education and Behavior, 37 (5), pp. 242–245
【註6】Fedoroff, I. C., J. Polivy and C. P. Herman (1997), “The Effect of Pre-exposure to Food Cues on the Eating Behavior of Restrained and Unrestrained Eaters” Appetite, 28, pp. 33-47.
【註7】Stroebe, W., W. Mensink, H. Aarts, H. Schut, and A. W. Kruglanski (2008), “Why Dieters Fail: Testing the Goal Conflict Model of Eating,” Journal of Experimental Social Psychology, 44, pp. 26-36.
【註8】Falciglia, G. A. and J. D. Gussow (1980), “Television Commercials and Eating Behavior of Obese and Normal-weight Women,” Journal of Nutrition Education, 12, pp. 196-199.
【註9】Shimizu, M. and B. Wansink (2011), “Watching Food-related Television Increases Caloric Intake in Restrained Eaters,” Appetite, 57, pp. 661-664.
【註10】Vale, R. C. D., R. Pieters, and M. Zeelenberg (2008), “Flying under the Radar: Perverse Package Size Effects on Consumption Self-Regulation,” Journal of Consumer Research, 35 (October), pp. 380-390.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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