グルコサミン関連サプリ、「効果なし」との論文発表…業界で届出撤回相次ぐ
「機能性表示食品のグルコサミン関連サプリが届出撤回」とのニュースが、昨年から今年にかけて相次ぎ、騒動となっています。いったい何があったのでしょうか?
まず、最近よく耳にする「機能性表示食品」についてです。いわゆるトクホ(特定保健用食品)が国の審査と許可を必要としているのに対し、機能性表示食品は、企業の責任で科学的根拠に基づいた機能を表示した商品であり、消費者庁に届け出をするだけで販売できるものです。たとえば「おなかの調子を整えます」などとパッケージに書いてあるものがそうです。
グルコサミンは、サプリメントのテレビコマーシャルでもおなじみですが、ヒアルロン酸、コンドロイチンなどと同類で「糖鎖」とも呼ばれます。これらの物質は、糖質とたんぱく質が結合したもので、血管の内面や関節内に存在し、潤滑剤や接着材として、あるいは複雑な情報伝達を担っていると考えられますが、まだ不明な点も少なくありません。里芋、おくら、なめこなど、ぬるぬるした食品がありますが、あのぬるぬるも、構造は異なるものの一種の糖鎖です。
さて、サプリメントの効果を正しく検証するには、協力者を公平に2つのグループに分け、一方のグループに本物を、また他方には偽物(プラセボ)をそれぞれ服用してもらい、一定の年月が経った後で効果を比べてみるしかありません。これは「ランダム化比較試験」と呼ばれます。撤回騒動のきっかけは、そんな論文のひとつが発表されたことでした【注1】。
その論文では、(膝や股関節の)変形性関節症と診断された人たちを対象に、ランダム化比較試験が正しく行われたと判断される6つの論文をまず厳選しました。そのなかから、3カ月まで追跡したデータと、2年間にわたって追跡したデータとをそれぞれ別々に集計し、関節の痛みや動きを改善する効果があったかどうかを比べたのです。その結果、わかったことは、いずれの場合も、グルコサミン関連サプリメントとプラセボの間に効果の違いがまったくなかった、という事実だったのです。
「効果あり」の論文に企業スポンサー
とくにグルコサミンは関節内に多く存在していることから、昔からサプリメントとして補給すれば、関節の老化予防に役立つのではないかと考えられ、学術研究も盛んに行われてきました。しかし発表論文のほとんどは、そのサプリメントを製造・発売している企業の社員か、あるいはその企業から研究費を受けた大学の研究者によって書かれたもので、忖度が働いているという疑念が払しょくできませんでした。
代表的な論文のひとつは、わずか100人のボランティアを対象に、わずか8週間の追跡を行ったという内容で、結論はグルコサミンを含むサプリメントは有効だった、と報じています【注2】。
さらに興味深い論文が米国で発表されています【注3】。最初に紹介した論文と同様、変形性関節症の患者を対象にして、関節の痛みが和らいだかどうかについて、ランダム化比較試験が行われた論文を集計したものです。同一の基準で論文を厳選したところ、15編が残ったそうです。興味深いのは、サプリメントを製造している会社がスポンサーになっていたかどうかで、結果を2つに分けて集計していた点です。会社がスポンサーになっていた論文は11編、スポンサーがついていない論文は4編でした。
ここまでの話の展開から容易に想像がつくと思いますが、スポンサーなしの論文の結果は、グルコサミン関連サプリメントの効果がまったく認められなかったのに対し、スポンサーありのほうは、グルコサミンは痛みに良く効くとの結論になっていました。同時に、論文によるばらつきが非常に大きいこともわかったのですが、この点は、恣意的な操作が行われていた可能性を窺わせるものです。
グルコサミンに限らず、健康上のなんらかの効果が科学的に証明されたサプリメントは、この世にひとつも存在しないことを追記しておきたいと思います。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
・参考文献
【注1】Runhaar J, et al., Subgroup analyses of the effectiveness of oral glucosamine for knee and hip osteoarthritis: a systematic review and individual patient data meta-analysis from the OA trial bank. Ann Rheum Dis 76: 1862-1869, 2017.
【注2】Nieman DC, A commercialized dietary supplement alleviates joint pain in community adults: a double-blind, placebo-controlled community trial. Nutr J 25: 154, 2013.
【注3】Vlad SC, et al., Glucosamine for pain in osteoarthritis: why do trial results differ? Arthritis Rheum 56: 2267-2277, 2007.