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ポスト五輪の東京~2020年以降も勝つまち、負けるまち~ポスト五輪を待ち受ける23区の勝ち目、弱り目

東京都、首都直下地震の地域別危険度マップ…中野区、杉並区は危険度「高」

文=池田利道/東京23区研究所所長
東京都、首都直下地震の地域別危険度マップ…中野区、杉並区は危険度「高」の画像1
中野区市街地の様子(「Wikipedia」より/Okajun~commonswiki)

 2014年12月19日、東京に衝撃的なニュースが走った。政府の地震調査委員会が、東京(都庁周辺)で今後30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率を従来の26%から46%へと大幅に引き上げたのだ(最新の予測では、東京48%、千葉85%、横浜82%、埼玉55%)。

 その3日後の12月22日には、迷走状態にあった新国立競技場の設計案がようやく決まる。週末を挟んでいたこともあり、テレビではこの2つのニュースを同時に報道する例も少なくなかった。

 トップニュースは新国立競技場のほう。キャスターもコメンテーターも、これで世界の国々に最高のおもてなしができると満面の笑みを浮かべた。続く地震関連のニュースになると、「東京ではいつ大地震が起きてもおかしくないと考えておくべきだ」と表情が一転。思わず、筆者はテレビに向かって「いつ起きてもおかしくない地震が五輪のときに起こったらどうするんだ」とつぶやいてしまった。

 実は、筆者のつぶやきはタブーなのだ。地震がいつ起きるかわからないというのは、あくまでもタテマエの話。ホンネでは「でも、五輪のときには起きないだろう」と大多数の人が考えている。

 震災の話になると、私たちは常にタテマエとホンネの間を右往左往せざるを得ない。大地震にいつ襲われてもおかしくないと聞いて、泰然自若を貫ける人は少ない。しかし、だからといって、仕事や家族のことを考えると、おいそれと東京から脱出できるわけではない。結局のところ、喉に小骨が刺さったような気分で、今日、明日を過ごしていくしかない。「小骨」ではなく「大骨」なのだが、そう考えた途端に先に進めなくなってしまう。

 このジレンマの果てに、「東京の中で安全なところに住みたい」という考えが頭をもたげてくる。目先のことしか見ようとしない安易な解決策ではあるのだが、人情としては理解できなくもない。だが、そのとき、沖積低地で地盤が軟弱な下町は危険だが、武蔵野台地の上に立つ山の手なら安心だと考えるのは、あまりにも単純すぎる。

「地震安全度」トップは板橋区、2位は練馬区

 東京都は、地震による建物の倒壊、火災、救急や消防をはじめとする災害時活動の困難さ、という3つの視点から、町丁目別に5段階評価を行った『地域危険度一覧表』を公表している。

 図表1は、これら3つの指標を合わせた総合危険度ランクが4以上とされた地区の面積の区の全面積に対する割合を示したものだ。23区平均は11.3%。つまり、東京23区の中でも上位1割にあたる高危険度地区がどれぐらいあるかを示したものと考えていただければいい。東京都、首都直下地震の地域別危険度マップ…中野区、杉並区は危険度「高」の画像2

 図表1を見ればわかるように、都心3区には高危険地区が存在しないことになっている。しかし、この結果だけを見て「都心は安全だ」と考えるのは早計にすぎる。木造の建物が少ない都心は、なるほど火事には強いものの、揺れの被害、人的被害、ライフライン被害などの危険性は必ずしも低いとはいえない。加えて、地震後のサバイバル生活を考えると、不安満載のタワーマンション居住、エレベータ閉じ込めの恐怖、帰宅困難者の多発といった都心型の課題もある。

 例外的な都心3区を除くと、高危険地区が一番少ないのは板橋区、次いで練馬区。武蔵野台地の上といっても、中野区杉並区は危険な地区が多い。その最大の理由は細街路が多く、災害時活動の困難性が高いこと。同様に細い道が多い世田谷区も、図表1に記した都の想定以上の危険性が潜在している可能性を否定できない。

「板橋区に住めば安全」とは限らない理由

 図表1は震災の危険性に対する大きな評価を示したものだが、具体的な地震の発生を想定したときの被害シミュレーションはどうなっているのだろうか。

 東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の地震が、風速8m/秒というやや強い風が吹く冬の夕方6時に発生したとすると、23区で想定される死者の数は9340人。阪神淡路大震災による死者が約5500人(震災関連死を除く直接死者数)だったことと比べると、被害の大きさがあらためて理解できるだろう。

 図表2は、こうした未曾有の被害のうち、読者の関心が高いであろう9つの項目について、被害が少ないとされている区をピックアップしたものだ。東京都、首都直下地震の地域別危険度マップ…中野区、杉並区は危険度「高」の画像3

 総じて安全度が高いと評価できるのは、やはり板橋区だ。9項目中4項目でトップ。残る5項目のうち4項目で2位。建物焼失率は都心3区に次ぐ4位だが、非木造の建物がおよそ7割を占める都心3区に対し、板橋区は逆に木造が約7割。そう考えると、実質トップレベルといっていいだろう。

 板橋区に次いで練馬区の安全度が高いことも、危険地区調査の結果と同じ。焼失率が6位にとどまるのは、同区が23区で一番木造建物の割合が多い(78%)ためだ。同じく6位の通信不通率も、23区平均と比べればはるかに低い。

 図表2を見ると、北区や豊島区も被害が小さいことがわかる。どうやら、東京は北に行くほど地震安全度の評価が高くなる傾向があるようだ。荒川・新河岸川沿いの板橋区北西部や北区の北部、東部は別にして、北に行くほど地震安全度が高くなるということは、武蔵野台地の形成にまでさかのぼる地質、地形の構造に由来しているのだろうか。残念ながら筆者は専門外で、正確なところはよくわからない。

 筆者がわかるのは、いくら他区と比べた相対的な安全度が高いからといって、「板橋区に住めば安全」とはならないということだ。板橋区でも40棟のうち1棟は倒壊あるいは焼失のおそれがあり、およそ7人に1人が避難所生活を強いられる。想定される死者の数は80人以上、重傷者は200人以上。「板橋区に住んでいるから大丈夫」と油断していたら、その中の1人にならないとも限らない。

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた! amazon_associate_logo.jpg

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