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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

ラニーニャ現象と新型コロナウイルスの関係性…感染拡大と経済悪化を助長の懸念

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
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「gettyimages」より

猛暑・厳冬をもたらすラニーニャ

 世界的に異常気象を招く恐れのあるラニーニャ現象発生の可能性が高まっている。気象庁が8月11日に発表したエルニーニョ監視速報によると、ペルー沖の海面水温が平年より低くなっており、冬にかけてはラニーニャ現象が発生する可能性が60%と最も高くなっている。

 ラニーニャ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5℃低くなる状況が1年から1年半続く現象である。ラニーニャ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。

 近年では、2016年夏から2017年春にかけて発生し、北海道を中心とした8月の長期的な大雨・豪雨 となったほか、1951年に気象庁が統計を取り始めて以来、初めて東北地方の太平洋側に台風が上陸した。また北日本では平年より7~10日早い初雪・初冠雪を観測し、関東甲信越では2016年11月に初雪・初冠雪を観測した。このほか、2017年1月中旬と2月中旬、3月上旬は日本国内のみならず、国外の多くで十数年に1度の北半球最大規模の大寒波が襲来した。

 気象庁の過去の事例からの分析では、ラニーニャ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが早まることで夏の気温は平年並みから高めとなり、冬の気温は平年並みから低めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

ラニーニャ発生時期の9割近くが景気回復

 ラニーニャ現象の発生時期と我が国の景気局面の関係を見るべく、過去のラニーニャ現象発生時期と景気回復局面を図にまとめてみた。すると、1990年代以降全期間で景気回復期だった割合は76.6%となる。しかし驚くべきことに、ラニーニャ発生期間に限れば90.2%の割合で景気回復局面に重なることがわかる。

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 実際、2005年のラニーニャ発生局面では記録的な寒波に舞われた。気象庁の発表によると、10-12月期の東京の平均気温は前年より1.37℃低くなった。この寒波効果で2005年10-12月期の消費支出(家計調査)は前年比+1.3%の増加に転じた。特に、家具家事用品が暖房器具の売り上げが好調に推移したことから、同+9.4%の伸びを記録した。また、冬物衣料を見ても、寒波効果は明確に表れた。同時期の被服及び履物支出は寒波の影響で季節商材の動きが活発化し、大型小売店でも冬物商材が伸長したことで回復が進んだ。保険医療の支出動向もインフルエンザ関連がけん引し、全体として好調に推移した。

 国民経済計算ベースで見ても、寒波の恩恵が及んだ。2005年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+2.3%と伸びが加速し、家計調査同様に家庭用機器の支出額が大幅に増加した。また、冬のレジャーの活況により娯楽・レジャー関連でも寒波が追い風となった。

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幅広い厳冬の影響

 以上より、仮にラニーニャ現象により今年の冬も厳冬となれば、各業界に影響が及ぶ可能性がある。事実、過去の経験によれば、厳冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、ガス等のエネルギー関連のほか、医薬品やマスク等のインフルエンザ関連も過去の厳冬では業績が大きく左右されている。そのほか、車等の防寒や凍結対策関連といった業界も厳冬の年には業績が好調になりがちとなる。さらに、鍋等冬に好まれる食料品を提供する業界や外食、コンビニ等の売り上げも増加しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの好影響も目立つ。

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感染症拡大リスクには注意が必要

 ただ一方で、コロンビア大学の公衆衛生学部メールマンスクールのジェフリーシャーマンとハーバード大学公衆衛生学部のマークリプシッチの研究から、ラニーニャ現象の気象パターンと世界的なインフルエンザの世界的流行との関係が明らかになっていることには注意が必要だ。

 というのも、過去の代表的パンデミックである1918年のスペインインフルエンザ、1957年のアジアインフルエンザ、1968年の香港インフルエンザ、2009年のパンデミックインフルエンザのいずれにおいても、パンデミック発生前にラニーニャ現象が先行している(January 20, 2012「Does the La Niña Weather Pattern Lead to Flu Pandemics?」)。

 この関係について、コロンビア大学Mailman School of Public Healthの研究者であるジェフリーシャーマン氏は、ラニーニャのパターンは鳥の渡り鳥のパターンを変化させ、これまでと異なる種の鳥が接触したりすることになる。その過程で遺伝子交雑や遺伝子変化が起こり、それが今度は危険な新型インフルエンザの発生を促進する可能性があると述べている。また、鳥同士の接触以外にも、鳥と豚などの動物との接触パターンも変化させることがあるとしている。

 もちろん、ラニーニャ現象が起こったら必ずパンデミック拡大というわけではない。しかし、足元ではすでに新型コロナウィルスの感染が拡大しているため、ラニーニャ現象に伴う厳冬により感染がさらに深刻化すれば、医療現場のひっ迫などを通じて、経済活動に深刻なダメージが及ぶ可能性があることにも注意が必要であろう。

 なお、仮にそこまでならなかったとしても、2005年の時のように年明け以降の厳冬は、豪雪に伴う交通機関の乱れや農作物の生育などへの悪影響を通じて経済活動に悪影響を与える可能性がある。また、異常気象は世界的な現象であることから、海外にも影響が及ぶことにより、穀物価格高騰を通じた悪影響も考えられる。世界的なラニーニャ現象により穀物価格が高騰すれば、2008 年当時のように我が国食料品の値上げラッシュをもたらし、家計の購買力低下を通じて経済に悪影響をもたらしかねないことにも注意が必要だろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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