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精神科医・本田秀夫氏インタビュー【後編】

高学歴の発達障害者がつまずく会社、出世する会社…「クセの強い人」を生かす社会を目指す

構成=兜森 衛
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Getty Imagesより

 国の内外を問わず、昔から有名人のなかに発達障害の特性があると思われる人たちが存在した。近年では、自らそのことを公表している人も少しずつ増えている。発達障害であれば、有名人や成功者になれるというわけではないが、発達障害であることが必ずしもマイナスに作用するとは限らないということだ。もちろん、発達障害であることから生きづらさを抱えて苦しんでいる人たちのほうが圧倒的に多いことだろう。

 その数、10人に1人と聞けば、通勤電車なら座席に座っている人のなかに1人。満員電車なら乗客のなかの少なくとも十数人程度が、発達障害もしくはその特性のある人かもしれない。身近なところでは、家庭なら親やいずれかのパートナー、子どもたち、親戚のなかに。学校なら先生や同級生が。会社では上司と部下、机を並べる同僚や先輩、後輩のなかに発達障害の人がいてもちっとも不思議ではないのだ。

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2019年に出版された『あなたの隣の発達障害』(小学館)。

 以下は、『あなたの隣の発達障害』(小学館)の「はじめに」の部分の一部。著者は前回に引き続き、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授である本田秀夫医師(55)である。

「発達障害の特性のある人は、今も昔も、少なくとも人口の一割は存在すると考えられます。おそらく、この本を手に取った皆さんの直ぐそばにも、発達障害の特性のある人は複数いると思います。その多くは、素直で真面目で思いやりのある人たちですので、皆さんは気づいていないのかもしれません。

 本書を読むうちに、「自分も発達障害かも」と思う人が出てくるでしょう。当たり前です。発達障害の特性が多少なりともあるという人は、たくさんおり、それが福祉などの特別な対応が必要なレベルまで至っているかどうかという差でしかないのです。また、同じ特性でも、環境やその人が属しているコミュニティの文化によって、発達障害と判断すべきケースもあれば、その必要がないケースもあります。

 発達障害の人がストレスなく生きていきやすい環境は、すべての人にとって快適な環境だと思います。逆に発達障害の人を排除する社会は、一般の人にとっても、とても窮屈で息苦しいものです。発達障害の特性がある人も、周囲の人たちも、ともに満足感を覚えながら生きていける社会を築くために、本書が多少なりとも貢献できることを願っています」

 前回に続き、本田秀夫医師に話を聞いた。

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本田秀夫(ほんだ・ひでお)
精神科医師、医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。1991年より横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。山梨県立こころの発達総合支援センター初代所長などを経て、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授。特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本発達障害学会評議員。現在は診療のかたわら若い発達障害の専門医の育成に取り組んでいる。

――先生の本を読んで、実際に私自身「自分も発達障害かも」と思いました。ADHDの特性にASDの特性も重複しているようです。今まで困ったことがなかったので気が付きませんでした。本田先生にも発達障害の特性があるとおっしゃっていますが、とてもそんなふうに見えない。先生はどんな特性をお持ちで、どのように対処されているのですか。

本田秀夫(以下、本田) 僕はASDの「こだわり」です。対人関係は技術で補っていますが、そんなに得意ではありません。空気を読んで仕事するというのはあまり好きじゃないので、これが正しいと思ったときに、それを曲げてまで人に合わせるのは嫌ですからね。自分でうつや不安症などの二次障害にならないようにしています。発達障害の特性は多かれ少なかれどんな人にも少しはあるものです。自分自身と周囲の人を一度チェックしてみるのもいいでしょう。

――歴史上の偉人や有名人、仕事で成功した人たちのなかにも発達障害だったといわれている人がいますが、それは本当なんでしょうか。

本田 現在であればなんらかの発達障害と診断されたかもしれない人はいると思います。その人の何か特定の部分だけを眺めてみれば、そういう見方も正しいとは思います。でも、発達障害をネガティブに見るのではなく、ポジティブに見ることができるとよいのです。発達障害のなかでも、この特徴があるとあまり社会適応がよくない症状というのがあります。ASDなら「何かに対する強いこだわり」「その場の空気を読むことが苦手」、ADHDだと「ミスが多い」「落ち着きがない」などの特徴で、これらがあると社会に出ると辛くなりやすいと思います。でも逆に、ASDの「こだわり」とか、ADHDの「アクティブなところ」は、決してマイナスではありません。とはいえ、みんながそれで成功するという保証はないですけどね。

“頭のよい”発達障害当事者は、高学歴を獲得しても社会に出てつまずく

――家族や会社など、身近に発達障害の人がいたら、どのように対処すればいいのですか。

本田 家族の場合だと、自分のお子さんが発達障害ではないかというケースが多いと思います。今はすべての都道府県に最低1カ所、発達障害者支援センターがあるので、相談してみるといいでしょう。

――自分の子どもが発達障害だとわかったら、子育てではどんなことに注意すればいいのでしょうか。

本田 わが国で一般的によいとされる子育てのやり方には、発達障害の子どもにとってはよいと言えないものが含まれます。なかでも、口頭で言っただけでピンとくるようにさせたいという育て方は、情報がうまく伝わらないので、発達障害を抱えた子どもにとってはネグレクトされたのと同じような状態になってしまいます。逆に過干渉でいろんなことを教え込もうとするのも、発達障害のお子さんにはストレスが多すぎます。

 それからもうひとつ、今の日本の社会って学歴社会ですが、発達障害のお子さんのなかに勉強のできる子がいるんですね。そうすると、勉強していい成績を取って、いい大学を卒業したらいい会社に就職ができてなんとかなる……と思いがちなんです。でも実際は、それで失敗する人が多いんです。社会に出て必要なことは、学校の勉強だけでは学べないのです。発達障害の子どもさんたちには、「療育」といって、ひとりひとりの特性に応じて日常生活に必要な力を身につけるための教育的なプログラムが行われていますので、そうした支援を積極的に利用するとよいと思います。

――がんの早期発見、早期治療みたいなものですね。もし早期発見、早期治療ができずに社会に出てしまったらどうなるでしょうか。日本の会社だと、発達障害の人は相当ストレスを抱え込むと思うのですが。

本田 大人の発達障害の人のいちばんの課題は、就職と仕事です。日本人は仕事にストレスはつきもので、それを乗り越えて向上するのが当たり前だと思い込んでいる。やった仕事に対する対価を得るのが労働ですが、日本の会社の多くは、社員に労働力の提供だけでなく、「向上のノルマ」まで要求しているからです。発達障害のある人は、その期待によって、よりストレスを抱えることになります。心身に不調を来たして、なかには自ら命を絶つ人も出てくる。でも、仕事は命を削ってまでするものではありませんよね。それは発達障害があろうとなかろうと同じです。私は仕事の目的は遊ぶためのお金を稼ぐことだと思っています。自分ができる範囲の仕事をきちんとやって、そこそこのお金をもらえばいいんです。

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