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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

新型コロナ、アクテムラで死亡率が大幅減少か…日本がコロナ治療で世界を主導する可能性も

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
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アクテムラ(写真:ロイター/アフロ)

 2020年10月、ドナルド・トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染したことは記憶に新しい。大統領選を控えたトランプ氏の容態に、世界の関心が集まった。しかし、トランプ氏はその強さをアピールするようにわずか3日で退院という回復の速さだった。トランプ氏の療養中、レムデシビルを投与したことを医師団が公表し、レムデシビルがコロナ禍の救世主となるのではないかと希望の光にも見えた。

 しかし、その期待は一転、世界保健機関(WHO)はレムデシビルの効果について、十分なエビデンスが得られず、さらに重篤な有害事象が生じる可能性が否めないとし、新型コロナ患者への投与を非推奨とすると公表した。

 新型コロナ感染拡大当初から、その治療にさまざまな既存薬の転用の可能性について研究が進められている。そのなかでも、リウマチ治療薬の既存薬トシリズマブ(アクテムラ)の新型コロナに関する効果について、イギリス政府が「重症患者がICUに移されて24時間以内にトシリズマブを投与開始した場合、死亡率を24%減少させる効果が認められた」と発表した。

 実は日本でもトシリズマブの効果には注目しており、中外製薬株式会社は2020年4月8日、トシリズマブの新型コロナウイルス肺炎を対象とした国内第3相臨床試験の実施を発表している。

 トシリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体と呼ばれる分子標的薬であり、炎症性サイトカインの一種であるIL-6の作用を阻害する働きがある。

 新型コロナに感染し重症化する場合、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応が起き、肺炎、肺損傷の急激な悪化を起こすと考えられる。サイトカインストームが起きるとIL-6が増加することがわかっており、トシリズマブによってIL-6の作用を阻害すれば肺炎のさらなる重症化を抑制する効果があるのではないかと期待されている。

 今回のイギリスの発表からも、トシリズマブの効果に期待が高まる。また、2020年に中国が作成したCOVID-19治療ガイドラインでも、重症例にトシリズマブ(アクテムラ)の使用が推奨されている。

 英米をはじめとする海外で、新型コロナウイルスワクチンの接種が始まったが、ワクチンへの期待の一方で副作用の懸念もある。また、日本へ十分に供給されるのかなど不安要素も多い。

 このような状況下でトシリズマブによる治療が有効となれば、コロナに打ち勝つだけでなく、日本にとって朗報となる。トシリズマブは大阪大学の岸本忠三特任教授らのグループと中外製薬が開発したもので、日本がコロナ治療においてイニシアチブを取るきっかけとなる可能性もあり、さらなる研究結果が待たれる。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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