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ケースで見る!「働くハイスペック女子」への処方箋

20~30代の働く女性、カロリー摂取量がケニア並みで栄養失調…ヘルシーな食事で体の不調

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
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「Getty Images」より

 例年よりも少し長いお正月休みだったこともあり、1月は職場で「正月太り」が話題になっていたという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、20代の女性の栄養摂取量が年々減少し、昭和20年代と同等だという事実を、皆さんご存じでしょうか(厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査」)。

 同調査では20代女性の「やせ」は全体の21.7%にも上ることを示しています。ここでいう「やせ」の定義は、BMI(body mass index)18.5未満です。BMIの視点からみれば、戦後に増加傾向をたどり社会問題となっている男性のメタボとは対照的です。この「やせ」の増加には、現代女性のやせ志向が根底にあり、さらに働く女性の増加が原因だと感じます。

 国の発展段階によって人々の判断基準が変化することも一因で、国が貧しいうちは太ることを望み、豊かになれば体形のコントロールができる「やせている人のほうがかっこいい」となる。これは日本だけではなく欧米やアジアでも見られる傾向です。

 1990年代のスーパーモデルブームのケイトモスを覚えていますか。「ガリガリでなくてはいけない」という価値観が若い女性に植え付けられた頃です。さらに最近ではSNSやカメラ付きスマートフォンなどの普及で、自分が見られているという意識が高まり、女性の摂取カロリーに対する意識が過剰に強まっています。近年、欧米ではやせ志向の末に増加している摂食障害への社会的意識も高くなり、一定以上のBMIでなければモデルになれないという規制のある国もあります。やせたスーパーモデルがランウェイを歩き、それを見た若い女性に過度な“やせたい願望”を抱かせていることから、このような規制が始まったのです。

働く女性は「必要な栄養素」を摂れていない

 私たち女性には、なんとなく「メタボは悪、太っているのは罪」という意識がある気がします。最近ウエストが締まってきたと感じると気分が良い、というのは女性共通の感覚でしょう。私が産業医面談をする女性に「食事はきちんと摂れていますか?」と聞くと、大抵の人は「ヘルシーな食事をしています!」と堂々と答えます。その「ヘルシー」の定義が怪しいため、何を食べているかを聞きますが、多くの人は「ヘルシー=野菜が多い食事→サラダ」という思考回路を持っており、昼はサラダ、朝はスムージーです。これは完全なダイエット食、すでに十分にやせているのに、です。

 20~30代の働く女性に必要な摂取カロリーは、国の発表で一日2000kcalほど。しかし実際の平均摂取カロリーは1470kcal、これ実は食糧難のケニアと同じで飢餓状態レベルなのです。また、労働時間が長い女性ほど摂取カロリーや必要な栄養素を摂れていないという調査結果もあります。

 現代では容姿も仕事の成果と同じくらい評価の対象になりやすいという、価値観の変化も背景にあるのかな、と感じます。誤解を恐れずにいえば、80~90年代のキャリア女性は「牛乳瓶の底のような眼鏡」でキャリアに突き進んでいても、それはそれで評価されていた。そんな高学歴女性はよくいました。しかし、今は一流大学卒であろうとMBAホルダーであろうと、見た目も向上してきました。つまり「見た目も中身も」。仕事の成果だけでなく、容姿も求められるというダブルスタンダードに直面しているのでしょうか。

 朝食の欠食も20代には多く、一人暮らしの女性の29%に上ります。仕事が忙しく、朝食を抜き、昼はコンビニのサラダとおにぎり1つ、夕方職場でクッキーを食べてしまったから夕食は抜く……私が産業医面談する女性に多いパターンです。これでは糖質がメインとなり、三大栄養素の中のタンパク質、脂質はほとんど摂れません。脳の働きに必要なアミノ酸のもととなるタンパク質、ホルモンの材料となる脂質の不足は、「見た目も中身も」が求められる働く女性にとって、仕事力、女子力を落としてしまう原因です。

女性の鉄不足も深刻

 鉄不足も深刻で、労働局のデータによると職場の定期健康診断の有所見率は平成に入り右肩上がり。今や貧血で献血不適格とされる割合は、男性では2%なのに対し女性ではなんと30%に上ります。女性は月経や妊娠、そして婦人科系疾患により鉄不足となりやすく、頻脈、息切れ、立ち眩み、注意力低下、神経過敏、頭痛などの症状が出ますが、鉄不足の症状ははっきりしないものも多いため、発見を遅らせる原因となっています。

 メンタル症状にも関係する脳内伝達物質合成に鉄が必要ということもあり、鉄不足で鬱の症状も出ます。メンタル不調だと思って受診したけど、採血をしたら貧血で、鉄を飲み始めたら鬱っぽさもなくなった、なんてことも結構あります。鉄不足の不調を気力で乗り切ろうとしているうちに糖分を取りたくなる、そんなことも起きます。糖質の摂取で乗り切り、その後悔で食事を抜く、まさに悪循環ですね。

「女性の社会進出」がうたわれた頃には、働く女性が増えることは女性の自立を促し、それにより女性が心身共に健康になると信じられていましたが、今や仕事をするのが当たり前、見た目も仕事の成果も求められ、さらに子育ても夫が頼りにならず「ワンオペ」で。そんな超ハードな女子の肉体は「栄養失調状態」で酷使されているのです。

 これからの働く女性は、ダイエット系のメニューではなく、必要なものをきちんと食べ、その分動く。そんな健康法にシフトです。さあ今日から、淡白なものばかりでなく、お肉に、魚、そして緑黄色野菜などをがっつり食べて、見た目と仕事のパフォーマンスを上げていきたいものですね。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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