ラグビー日本代表は、なぜ31人中15人が外国人選手なのか?スポーツと国籍問題を考える
『日本人よりも日本人らしい』のエゴ
現在のルールでは、外国の代表に一度なってしまえば、母国の代表にはなれない決まりとなっている。とするならば、日本代表を目指す海外出身の選手は、日本に対する思いが人一倍強い――ということなのだろうか。山川氏はこう語る。
「ニュージーランド出身で、現日本代表キャプテンのリーチマイケル選手(現在は日本国籍を取得)は、海外出身選手のために『君が代』を歌う練習の場を設けたり、その歌詞の意味をよく理解するために宮崎県の大御神社に足を運び『さざれ石』を見学しに行ったり、そして俳句を勉強したりなど、日本について学ぼうとしているのは有名な話です。そのような外国人のことを『日本人よりも日本人らしい』と語る人がいるのですが、私ははたしてそうなのかと思ってしまう。
リーチ選手は、『日本人選手はミスがあっても『ドンマイ』『ドンマイ』とチームの和を尊び、ミスの原因を追及しない』と話していました。『それでは強くならない。だから、グラウンドのうえでは、自分は日本人らしくならないように気をつけて、ミスの原因を厳しく指摘している』と。私はそこに、考え方が異なる日本人と海外出身の選手が代表チームを一緒につくっていくラグビーの面白さがあると思いました。
日本代表だから、と海外出身の選手たちが日本人よりも日本人らしくなってしまっては、ラグビー日本代表の魅力が薄くなってしまう気がする。もちろんリーチ選手たちは、日本文化や、日本人らしさを尊重しています。多様な価値観を持ちながら、日本を代表する責任を誰よりも知る選手たちがいるからこそ、日本代表は強くなってきたと思うんです」
「日本代表」を選んだ理由はなんだっていい
さらに山川氏は、「それぞれの海外出身選手が日本代表を選んだ理由に注目してほしい」と続ける。
「韓国の選手が日本代表になるプロセスが気になって、韓国人として戦後初の日本代表選手になった金喆元氏や、現役の日本代表である具智元選手にも話を聞きました。韓国ではなく、なぜ日本代表を選んだのかと聞くと、金さんは『高校時代からずっと日本のラグビーに憧れて、日本の社会人で活躍することしか頭になかった』と語っていました。韓国代表選手だった父を持つ具選手も『日本代表は憧れの存在だった』と。あくまでもスポーツですし、国籍にはとらわれず、『ただそのチームが好きで、プレースタイルに憧れていたから』という理由でも、私は全然構わないと思っています。彼らが日本チームのために頑張ることに変わりはないですからね」
今回のW杯で4回目の出場となったニュージーランド出身のトンプソンルーク選手も、日本代表としてプレーする意味について、こう語ったという。
「トンプソンルーク選手は、『日本はめっちゃいい国で、特に大阪が大好き。好きな町で暮らし、その国の代表として戦う。そこがラグビーのいいところ』と話してくれました。シンプルでいいですよね。彼は、日本代表としてはじめて出場した第6回W杯をニュージーランド国籍のまま戦いました。しかし次の第7回大会の前に『日本代表として出場するには、日本人として戦いたい』と日本国籍を取得します。話を聞いていて、大好きな町で暮らし、日本の仲間とプレーするなかで、日本への思いが強まっていくような感じを受けました。
いまだに彼らを『助っ人』という目で見る人もいます。強い助っ人をたくさん使っているのだから、勝たなければならない、と。でもスポーツだから、勝つときもあれば、負けるときもある。それでいいじゃないかと思うんです。海外出身の選手がプレーするのは日本だけではありません。さまざまなルーツを持つ選手たちが、自ら選んだ国の代表として戦う。それが、ラグビーの醍醐味のひとつなのですから」
2019年4月より改正出入国管理法が施行され、外国人労働者のさらなる増加が予想されている。在留外国人の数は、2018年末時点ですでに270万人超。300万人を超えるのもそう遠くはないだろう。外国人排斥の動きも強まる一方で、「隣人としての外国人」は確実に増えているのだ。
国籍とは何か、日本人とは何か、そして「日本代表を応援する」とはなんなのか――。ラグビー日本代表のあり方は、日本の将来を考える上で、非常に示唆に富む存在なのかもしれない。
(文=福田晃広/清談社)