口座開設時の金融審査がずさんだった郵貯
郵貯では口座開設時の審査が行われてこなかったということで、素性の不明な口座が多く存在するといわれる。
郵政民営化以前の郵便局には、普通郵便局、特定郵便局、簡易郵便局の3種類があり、普通郵便局は郵政公社の直営だったが、特定郵便局は地域の名士や有力者などの個人が経営する郵便局だった。
これは、郵便局を全国的に普及させるためにとられた制度であるが、結果的に特定郵便局が全体の4分の3を占めるといった事態を招いた。特定郵便局は、「親が局長なら、その子供も局長になれる」といった世襲制も可能であり、いわば郵便局のフランチャイズ的な扱いであったが、そうした金融の素人が厳格な金融審査を行うことは、実質的に不可能だろう。
そういった事情も弊害となり、郵貯では、口座開設時の審査がまともに行われてこなかった実態がある。
日本では、銀行口座は「誰でもつくれるもの」という認識が一般的だが、欧米では「銀行口座を開設する=小切手帳が発行される」ということで、口座をつくる際には厳格な審査が行われる。そのため、必ずしも誰もが持てるというものではない。
日本は基本的に小切手などを使わない現金主義のため、「お金を預ける=銀行口座を開く」という感覚であり、それは郵貯においても同様だった。しかし、「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会」(FATF)の「資金洗浄に関する40の勧告」に基づき、犯罪収益移転防止法が強化されることになった。
銀行に関しては、金融庁の指導もあって厳格な対応が進められてきたが、前述のような経緯から、郵貯およびゆうちょ銀行では対応が遅れていたわけだ。
違法状態だったSEALDsのゆうちょ口座
ゆうちょ銀行に素性のわからない口座が多数存在すると同時に、その対応が遅れているという状況が判明した背景には、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の存在があった。
昨夏、安全保障関連法の反対を訴えるデモ活動などで名を知られることになったSEALDsは、インターネットなどでゆうちょ銀行の口座を公開し、「カンパ募集」などと称してお金を集めていた。しかし、その口座名はSEALDsではなく、前身団体のSASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)だった。
これは、実は違法行為にあたる。たとえ運営者が同じでも、口座の使用は名義人しかできないことになっており、名義が違う以上は他人名義の口座でお金を集めていることになるからだ。
また、基本的に政治活動は政治団体として届け出た団体しかできず、届け出前にお金を集めたり払ったりすることはできない。そして、政治団体の届け出をするためには、代表者と会計責任者、会計責任者が辞任した場合などに備えるための代行者の合計3名が必要であり、代表者や責任者がいない組織というのはありえない。
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