成果を上げるためだけに、道具のように素手を振るわされることはやらなくてもいい。そうではなく、自分よりも強い相手と戦う、人間がいなければゴリラとか、自分の力をもっともっと成長させ、限界を超えさせてくれる相手がいたら、そういう人とだけ戦って、限界を超えるようなことを試してみる。
自己を解体して、ただただ自分の力を高めるだけに戦っていく。そういう精神は今とても大切なのではないかと思います。
借金漬けは戈を振るわされていることと同義
大山の「武」の意味に照らし合わせると、今の学生や大学院に行って研究者になろうとしている人たちは、戈だけを振るわされる状態になっています。借金漬けにされて、それを返すためにカネを稼がなければならないのです。
だから、いい企業に就職して、カネという成果を上げることだけに、持っている力を一直線に使わされてしまっています。たぶん、研究者もそうだと思います。がんばって大学に入学し、大学院の修士、博士と進んだが、大きな借金ができてしまった。ではどうすればいいかというと、いい成績、成果を上げなければなりません。カネと業績のために、自分が学んできた力のすべてが収斂されてしまうのです。
いま何が大事かといえば、戈を止めることだと思います。戈を手中にすることだけに自分の力が釘付けにされてしまっている。
あまりにも成果だけにくぎ付けされたら、一度それを止めてもいいのです。ブラック企業で働かされたら、いつでもやめていいのです。おそらく、辞める力も、本当の意味での自分の力ではないでしょうか。いったん戈を止めて動き始めると、自分の身体の感覚が変わってくると思います。
就職できなかった学生が音楽やったっていいと思います。スポーツをやっても、それこそ空手でもいいです。必ずしも成果にこだわらないことをするのです。一度戈を止めると、もっと自由に思考し、自由に行動できるようになるはずです。
大学に関していえば、奨学金という借金漬け状態ですが、いったん自分の戈を抑える――。そういう力を持ってみてもいいのではないかと思います。
(構成=林克明/ジャーナリスト)