・では軍事的選択には何があるか。
第一にワシントンは北朝鮮の核施設、弾道弾施設、発射場、潜水艦施設への先制攻撃ができる。サイバー攻撃等さまざまな段階がある。最終段階には全プログラムを排除するため、空海基地に拠点を置く武力の行使である。
第二に、米国はミサイルが米国向けに発射されるまで待ち、破壊することができる。これは時間的余裕があるが、危険性を増す。
第三に指揮系統の攻撃がある。これらすべては韓国、特にソウルの市民への危険を有する。ここでは非武装地域周辺の大砲の射程距離内にある。したがっていかなる軍事行動も、これらの攻撃は、北朝鮮の攻撃力を機能不全にしなければならない。米国は攻撃前に同盟国の合意を求めなければならないが、いかなる政府も米国民を金正恩の核兵器からアメリカ国民を守る行動に拒否権は発動できない。米国と韓国は17年7月29日、北朝鮮のICBMに対抗するため、東シナ海にミサイルを発射した。中国は多大の利害関係を持ち、大量の難民が北朝鮮から中国に流入する。米中とも両国軍の紛争を望まず、攻撃前には中国との協議は必至である。
・北朝鮮、イランの核を止めることが、核兵器が世界に拡散するのを止める最後のチャンスである。
<参考2>
リチャード・ハース著「北朝鮮の核開発プログラムからの10の教訓(Ten Lessons from North Korea’s Nuclear Program)、「Project Syndicate 掲載論評」
・北朝鮮は核弾道弾を製造し、ミサイル開発を行ってきている。多くの政府は北朝鮮の開発をどう防止するか、開発速度を弱めさせるか、これらの努力が失敗したときにどうすべきか検討してきている。国際社会の努力にもかかわらず、北朝鮮がなぜ核兵器、ミサイル開発を進めてきたかを理解することが重要だ。
・第一に、基本的な科学的ノウハウと近代的工業能力を持つ政府は、遅かれ早かれ開発に成功する可能性が高い。該当する技術は広く利用が可能である。
・第二に外部からの支援は抑制することはできるが、閉ざすことはできない。利益が生み出せる時にブラック・マーケットはいつでも存在する。特定の国はこうした市場を手助けする。
・第三に経済制裁が達成できることには制約がある。制裁は核兵器開発費用を増加させるが、歴史を見れば特定国がその獲得が十分価値あると判断すれば、その国家は相当額を払う用意がある。インドの核開発の例を見れば、特定国の開発の現実を受け入れたり、他の目的を追求する際には、この制裁は消滅する。
・第四に諸政府は常に国際的視点を最重視するわけではない。中国は核拡散を望まない。だが中国は分断されている朝鮮半島を望み、北朝鮮がバッファーとして機能することを望んでいる。米国はパキスタンの核兵器開発に反対であったが、アフガニスタンでのパキスタンの協力を望んだので、行動は緩やかだった。
・第五に核兵器が使用されて約75年、依然核兵器は価値あるものとみなされ、それは威信のためではなくて安全保障の観点に基づくものである。そのような判断をイスラエルが行った。ウクライナ、リビア、イラクは米国の圧力などで核兵器をあきらめたが、結果、攻撃された。北朝鮮はこうした運命を避けてきた。
・第六にNPT(核拡散防止条約)は不十分である。NPTは自発的協定である。
・第七に最近の国連総会での核兵器禁止などの新たな外交努力は目立った効果を持っていない。
・第八に核兵器拡散に反対するという明確な基準はあるが、特定国が核兵器を開発しようとした場合どうするかについての明確な基準はない。
・第九に核拡散に対応するほかの手段は、時の経過と共に悪化している。1990年代初め、米国は軍事使用を考えたが、朝鮮戦争を引き起こす可能性からやめとなった。状況は改善されず、使用すべき軍事力はより大きく、成功の見通しはより不透明となった。
・最後に、すべての問題が解決されるというものではない。いくつかの問題は管理できるだけである。イランが核兵器をいつの日か開発するのではないかという問題に結論を出すのは早すぎる。15年合意はこの危険を遅らせはしたが、排除はしていない。北朝鮮に対しても同様である。こうした危機を管理することは満足できるものではないが、多くの場合それが望みうる最大のものである。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)