大新聞の社長追放作戦は失敗?写真週刊誌に不倫暴露の効果は未知数、次の手も用意
業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていたが、もう一人の首席研究員、吉須晃人とともに、新聞業界のドン・太郎丸嘉一から呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。しかし、その計画を実行に移す直前に東日本大震災が起こった。震災から2カ月を経て、太郎丸が計画を実行に移した。
日本ジャーナリズム研究所首席研究員の吉須晃人と深井宣光の二人が「すげの」に着いたのは午後6時15分だった。
若女将が二人を案内したのは2階の和室だった。すでにジャナ研会長の太郎丸嘉一が部屋の床の間を背に難しい顔をして座っていた。
「会長、遅れてすいません。地下鉄が人身事故で止まっていまして…」
吉須が口から出まかせの言い訳を言って、卓袱台の手前に正座した。深井は少し戸惑ったが、吉須の脇に並んで正座した。そして、二人は畳に頭を擦りつけようとした。
「おい、なんじゃ。お主ららしゅうもないぞ。早よう席に付けや。わしは気にせんわ」
二人が面を上げ、座椅子に着くのをみて、太郎丸は続けた。
「今日は鰻の出前を頼んじょるが、1時間くらい後じゃ。それまでお茶でええな。わしが何を話しよるかは言わずもがなじゃな」
二人は黙って頷き、太郎丸の二の句を待った。
「まあじゃな。お主らには異論がありよるじゃろうが、わしは一応の目的は果たしよったと思っちょる。まずはお礼じゃ」
太郎丸は卓袱台に両手をつき、頭を下げた。
「会長、『一応の目的は果たせた』とはどういういうことですか? まさか、うちの村尾(倫郎)と大都の松野(弥介)さんを退陣に追い込むメドがついたわけじゃないですよね」
吉須が黙っていられずに卓袱台に乗り出した。
「それはそうじゃ。『週刊真相』編集長に続報を頼みよったんじゃが、駄目じゃった。続報しよってくれたら、この6月末の定時株主総会でも脈が出てきよると思っちょったがな。じゃが、布石は打ちよったから、遅くとも来年の総会までにはなんとかできよるじゃろ」
「うちの社長候補は監査役の源田(真一)でしたよね。でも、株主総会の招集通知の新任取締役候補に載っていませんでした」