大新聞の社長追放作戦は失敗?写真週刊誌に不倫暴露の効果は未知数、次の手も用意
驚いた様子で、吉須が遮ると、太郎丸は「何をばかな」という顔つきで睨みつけた。
「お主、伊苅を念頭に置いちょるんじゃろうが、心配せんでええ。わしが使いよるのはうち(国民)の連中じゃ。政官財の取材で、ことあるごとに今度の『深層キャッチ』の写真と記事を吹聴させよるんじゃ」
「会長、そんなことで二人を追放できると思っているんですか。甘すぎます」
吉須も負けずに反論したが、太郎丸は動じることはなかった。
「お主、わしを見くびよってはいかんぞ。『人の噂も七十五日』といいよるじゃろ。今は、二人も警戒しちょるが、秋頃にはのう、もう一度、チャンスがきよる。わしの秘書の杉田玲子のことは出ちょらんからな。今はその前戯みたいなものじゃ」
「探偵を使うんですか」
今度は深井が我慢できずに容喙した。
「決めたわけじゃないがのう。じゃが、“追放”のためには何でもやりよるんじゃ」
「つまり、秋以降打つ手によっては僕らの出番があるということですか?」
「ふむ。そういうことじゃが、その前に、万が一、奴らが『深層キャッチ』を訴えてきよった時はその時もじゃな…」
「会長、なんですか。さっき、『奴らは訴えなどしない』と断言したじゃないですか。深井君は知らないが、僕は何もしませんよ」
「わかっちょる。吉須、お主の言いちょりたいことはわかっちょるがな。そうカリカリするな」
太郎丸が宥めようとした時、1階から若女将の声が掛かった。
「お食事の準備が出ました」
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。
※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。
※次回は、来週5月2日(金)掲載予定です。